2010年 2月 9日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉89 及川彩子 壁に吹き込む命

     
   
     
  わが家の居間の白壁いっぱいに、アジアゴの四季を描いたフレスコ画があります〔写真〕。フレスコ画は「何百年も変わらずに残る宝」と言われ、年を経るほどに空気となじみ、呼吸する力を持つというから不思議です。

  描いたのは、近郊の町に住む日本人の坂田秀夫さん。千葉県の教員だった秀夫さんは、定年後、フレスコ画を学ぶため、ご夫妻でイタリアに移住、数年の修業の後、画家として活動を始めました。作品の数は、北イタリアの教会や学校など百点余に上ります。

  精力的に描き続けていた昨年夏、病に倒れ、以来入退院を繰り返し、歩行困難になった今は自宅療養の日々です。

  「人間はどこに生きていても同じ。故郷に帰りたいとか、欲は全くなくなったけど、むしろ心の平和かなあ…」と、静かに語る言葉に勇気付けられます。

  この1月、ローマに行った折、イタリアの友人に「ぜひ見て」と勧められ、カプチーノ教会を訪ねました。通称「骸骨寺」。その地下墓地に一歩踏み入ると、壁面も天井も骨の芸術。思わず息をのみました。

  唐草模様・幾何学模様・壁と言う壁は、まさに骨のモザイク。身体のどの部分なのか、大きさも爪ほどの小さなものから、足や腕の長さ、肋骨の湾曲形と、それぞれのパーツが見事に組み合わされ、教会とは思えない異様な光景が展開していたのです。積み重ねられた「されこうべ」の壁、天井から見下ろすのは、幼児の骸骨です。

  18世紀、清貧に生きた聖フランチェスコに始まる宗派の僧侶が造ったというこの地下墓地。遺体は16世紀以降に、この教会で亡くなった4千人もの修道士たちだそうです。

  遺体にも、祈りを吹き込もうとしたのか…白く脆(もろ)い骨が、燻(いぶ)し銀のように輝くこの空間に佇(たたず)んでいると、フレスコ画を「永遠なる呼吸」と言った坂田さんの言葉が思い出されました。
(イタリア北部・アジアゴ在住)


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