2010年 2月 25日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉298 岩橋淳 大きな大きな船

     
   
     
  その作品は海外でも評価されていながら、なお、絵本作家の域にとどまらず、音楽、文学と多彩な表現活動を続ける長谷川氏。こどもに媚(こ)びることなく、おとなにおもねらない、孤高の作風。時に社会派、時に叙情派。織り込まれるのは、過ぎ去りし少年の日への、甘酸っぱい感傷。……今週の一冊は、そんな長谷川作品の中でも、とりわけセンチメンタルな1冊です。

  夏の日差しの中、ハンドルを握る父。後部座席の、小学校高学年とおぼしき息子。
「父さん、ぼく父さんに母さん役までやってほしいと思わないよ。……」

  窓外の彼方に視線を投げながらつぶやく、これが冒頭の息子の第一声。ここまでこの父子がたどってきた時間が暗示され、やがて、かれらが、なんらかの理由で妻(母)と別れて暮らしていることが判明します。生別か、死別なのかは作中では語られず、物語の読み方は、読者に委ねられているかのよう。そしてなんらかの傷を抱えて独り生きてきた父は、息子のために作ったカレーが甘かったと評されることで、わが子の成長に気づく……。

  男の子と、父親。両者のはざまに横たわる、母子間の親密さとは異質の、微妙な緊張感。親子であり、ライバルであり、そして仲間でもある。……時代という大きな船の上で、やがて対等の旅人となる日。かなしみを超えて生きる決意をしたとき、その切符は掌に握ることができるのです。

  【今週の絵本】『大きな大きな船』長谷川集平/作、ポプラ社/刊、1260円(2009年)。
 

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