2010年 3月 2日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉126 望月善次 鴎とばず、さむざむしき

 鴎(かもめ、旧字体)とばず、さむざむしきは八戸の入江
  の空の藍色のつぼ
 
  〔現代語訳〕鴎も飛んでいません。寒々しいのは、藍色の壷のような八戸の入江の空です。

  〔評釈〕「冷鴎 熱鴎 愛鴎」十三首〔『アザリア』第五号(大正七年二月二十日)〕の四首目。冒頭の「?とばず」は二つの点で注目した。一つは、「カモメトバズ」と六音による初句切れの点である。「初句切れ」は、『新古今和歌集』などで多く使用されたが、現代短歌においては、そこで意味が切れるのみではなく「一首の意味を重層的にする」〔『岩波現代短歌辞典』〕という働きがある。「字余りの初句切れ」という〈方法〉に嘉内はどの程度自覚的であったのだろうか。もう一つは、意味上の問題である。鴎はそこにいたのに飛んではいなかったのか、鴎自体がいなかったのかという問題である。理念的には、どちらも可能だろうが、評者の感覚としては前者に傾きかかっている。一首全体としては、八戸の空に囲まれた空間を「藍色のつぼ」としたところが工夫の核心か。ちなみに「壷」は、「腹が膨れ、口のつぼんだツボを示す、象形文字で、上部は蓋(ふた)を示すという〔『角川漢和中辞典』〕。
(盛岡大学学長)


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