2010年 3月 9日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉91 及川彩子 アクア・アルタの街

     
   
     
  ベネチアの冬の風物詩と言えば、街中が水浸しになる「アクア・アルタ」現象。満月・新月の時に高潮になり、アフリカからの暖かい風シロッコが吹くと、水位がぐんぐん上昇して運河の水があふれ出すのです〔写真〕。

  道のあちこちに水溜りが出来、水浸しが広がると、道の中央に高さ50aほどの歩道橋が設置され、土産物店やガラス店、バールでも水のかき出しに大わらわ。

  数年前の高潮では、大雨とシロッコが重なり、サン・マルコ寺院の大広場は池と化し、ゴンドラが行き交うほどでした。何世紀も前からのこの現象に慣れっこのベネチア人は、腰までの長靴を履いて闊歩(かっぽ)。右往左往する観光客も自然の悪戯に「この時」とばかりにカメラを向けていました。

  そんな水との戦いも、現代の技術をもってすれば解消される問題でしょうが、あえて対策を取らず、古い街のあるがままを維持する姿勢に、学ぶ点は少なくありません。

  運河に浮いた水上バスの乗り場や、階段状に造られた運河沿いの邸宅の玄関などは、潮の干満に適応したもの。今の下水は化学処理されていますが、昔は家庭の汚物を運河に捨てても、潮が海の彼方に運び、自然浄化してくれるので、ヨーロッパのどの都市よりも清潔な街と言われたそうです。

  一方、水の都でありながら、飲み水の確保には大変な努力と工夫がなされました。井戸を掘っても、干潟からは良い地下水が得られないため、14世紀に雨水をろ過するシステムが開発されました。そして各広場に公共井戸を作り、屋根の雨水を集め、その井戸に流す樋を全家庭に義務付けたのです。

  今は本土側から水道が引かれていますが、当時の3千余の井戸が、そのまま残されていて、街を格調付ける一役を担っているのです。

  街ぐるみ世界遺産のベネチアは「自然とともに呼吸する街」だけに、いつ訪れても魅力は尽きません。


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