2010年 3月 9日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉129 望月善次 牧場のとりでは

 牧場のとりでは雪に埋れて若き男は
  赤き巾振る、
 
  〔現代語訳〕砦のようになっている牧場は、雪に埋れていますが、そこで若い男が、赤い布を振っています。
  〔評釈〕「冷鴎 熱鴎 愛鴎」十三首〔『アザリア』第五号(大正七年二月二十日)〕の七首目。「砦(取手)」は、「此(さえぎる)+石」から成る文字で「石を築いて敵の侵入を防ぐ」意となるが、「本城ではなく」の意味からは「取手」の表記も示唆的。「牧場のとりで」は、「砦のようになっている牧場」の意味だとした。「巾」は、「拭う」の原義から「手あかを拭う布」の意味が発生した象形文字。「幅」の略字として用いられることもあるがここでは本来の「布」の意。相手に対して「布を振る」と言えば、松浦佐用姫(まつらさよひめ)が大伴狭手比古(さでひこ)との別れに際して、領巾(ひれ)を振った領巾振山(ひれふりやま/鏡山=佐賀県唐津)の例があまりにも有名で「海原の沖行く舟を帰れとか領布振らしけむ松浦佐用姫」〔万葉集五・874〕等の作品もある。布を振るのは、「魔よけ」の意があり、送迎の際に用いられた。松浦佐用姫の例のように、奈良時代からは主に女性の行為であったが、もちろん「若き男」の「赤き巾」に伴うドラマ性を否定するものではない。
(盛岡大学学長)


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