2010年 3月 11日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉130 望月善次 雪の斜面、いばら林に

 雪の斜面、いばら林に辷り落ちて帽子
  のきれは鍵に破れぬ。
 
  〔現代語訳〕雪の斜面で、茨の林に滑り落ちて、帽子の端は、鍵状に破れてしまいました。

  〔評釈〕「冷鴎 熱鴎 愛鴎」十三首〔『アザリア』第五号(大正七年二月二十日)〕の八首目。六首目で取り上げた「七つ森、雪の斜面を行くとして天の大日に輝かれけり、」に続く作品として読むと、七つ森の雪の斜面で滑り落ちたという様な情景を思い浮かべれば良いであろうか。「いばら(茨)」は、「トゲ」のある低木の意味。ちなみに、漢字「茨」は「草冠+次(積もる)」から成り、「草を積み屋根を覆う」が原義。「すべる」に用いられている漢字の「辷」は「道+一(平ら)」で「なめらかに道を行く」が原義で、今日多くの人が用いる「滑る」の「滑」は「水+骨(なめらかに流れる)」から成る漢字で「水がなめらかに流れる」が原義の漢字。「鍵に」は「鍵状に」の意だとした。そうした点からは、「鉤の手」(ほぼ直角に曲がっていること)〔『広辞苑』〕を踏まえた「鉤(かぎ)」の表記も考えられるところか。山梨県出身の嘉内には、「雪の斜面を滑り落ちる」体験は、新鮮でもあったろう。
(盛岡大学学長)

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