2010年 3月 13日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉131 望月善次 雪の雲、カンバの林

 雪の雲、カンバの林蓋ひ来てべんとう
  (ママ)の箱はまつしろに冷ゆ、
 
  〔現代語訳〕雪を降らす雲が、白樺の林を覆って来て、弁当箱も真っ白に冷えるのです。

  〔評釈〕「冷? 熱? 愛?」十三首〔『アザリア』第五号(大正七年二月二十日)〕の九首目。初句の「雪の雲」における「雪の」の表現は、前後に置かれた「雪の斜面、いばら林に辷り落ちて帽子のきれは鍵に破れぬ。」、「雪の山、峙つ山の逆光に弁当箱はあはれ冷えたり、」を考えてみても明らかに意図的なもの。「カンバ」は、「カニハ」の音便でシラカバ(白樺)の別称でほかにもシラカンバの呼称もある〔『広辞苑』〕。「白樺」の名は「樹皮が白く横にはげる。」ことに由来する〔『マイ・ペディア』〕。「べんとう」は「べんたう」の誤記か(なお、「べんとう」は嘉内のノートにおいては旧漢字表記であった。)。「弁当」は「面桶(メンツウ)」の転とも「便当(便利なもの)」の意とも言う〔『広辞苑』〕。「まつしろに冷ゆ」は、冷えの現象を「まつしろに」と色彩感覚でとらえたところが作品の手間。「雲……蓋ひ来て」と「冷ゆ」の関係は必ずしも論理性はないのだが、それでこそ「作品」となる。
  (盛岡大学学長)

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします