2010年 3月 18日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉301 岩橋淳 おもいで

     
   
     
  高卒と同時に詩作を志して上京し、看板職人を(近年まで)続けていたという経歴の持主でもある内田氏(1941〜)。作品によって風合いは千差万別、言葉を操ることにかけて熟達をきわめた氏の心象風景とでもいうのが、今週の一冊です。

  これは、物語、いやモノローグかもしれません。水彩、前半はモノクロで描かれます。

  いつも見る、同じ夢。「ぼく」は同乗者のないバスに乗り、地方の街を揺られていきます。

  どことも知れない。なぜだかわからない。町を抜け、巨大な煙突をすり抜け、坂を上って、荒涼とした折り返し点まで。間に橋のない谷を挟んで、ボタ山と炭鉱住宅が望まれます。ここに住んでいるのは、誰なのか?

  おそらくは作者の故郷、九州・大牟田の風景。しかし、当時は炭鉱の町として最盛期であった風景は、どこかうら寂しく、寒々としています。同時期に一世を風靡(ふうび)した漫画、つげ義春の問題作『ねじ式』(1968)に通じるかのような印象を受けるのです。

  後半、風景は一転、色彩を持った現実が描かれます。「ぼく」を乗せ、花が咲き、人の行き交う街を進むバス。わだかまりのあった継母を看取った「ぼく」の胸に去来する亡き実父母への思い。夢で追い求めていたのは? 「ぼく」を呪縛から解き放ったものとは?

  作画に関して、ベテラン画家と組めば丁々発止の切り結びを披露しますが、新人の発掘にも心を砕く内田氏。原作をがっちり受け止めた新進・中野氏の絵本初作品でもあります。

  【今週の絵本】『おもいで』内田麟太郎/昨、中野真典/絵、イースト・プレス/刊、1365円(2009年)。

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