2010年 3月 20日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉133 望月善次 外套に白雪ちると

 外套に白雪ちると泣きだせし紺の羅
  紗こそあはれなるかな
 
  〔現代語訳〕外套に白雪が散っていると言って泣き出した、紺色の羅紗を着た人が、ああ愛しくてたまらないのです。

  〔評釈〕「冷? 熱? 愛?」十三首〔『アザリア』第五号(大正七年二月二十日)〕の十一首目。「外套」は、言うまでもなくオーバーのこと。その「套」は、「大+長」で「非常に長い」が原義であるが、転じて「重ねる」の意となる〔『漢和中辞典』(角川書店)〕。「外套」の「套」は、その転じた意味。「羅紗」は、厚地の紡毛織物の総称。16世紀中ごろの南蛮貿易によってもたらされた毛織物に由来し、ポルトガル語の「ラーシャ(raxa)」によるという。「紺の羅紗」は、直訳すれば「紺色の羅紗」であるが、「結合比喩(ゆ)」で、「紺色の羅紗で作られたものを着た人」だと読んだ。意味の特定には、その「紺色の羅紗で作られたものを着た人」と話者の関係が問題となろうが、好意を寄せ合っている男女なのだと読んだ。「紺の羅紗」が泣き出すに至った理由は、もちろん抽出作品の範囲でははっきりはしない。泣き出すに至る理由は満ちていて、「白雪ちる」はその契機に過ぎないというのが評者の読み。
(盛岡大学学長)

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