2010年 3月 30日 (火)

       

■ 〈命のアート〜るんびにいのアトリエから〉2 板垣崇志 八重樫季良さん

     
   
     
  私が知的障がい者施設で出会い、衝撃を受けた作品の数々。その中の一点を、今回はご紹介したいと思います。

  細かな格子状に交錯する線の中を、たくさんの複雑な色彩が彩ります。抽象画のように見えますが、実はこれが自動車の絵だと知ったら、多分多くの方が驚かれると思います。

  作者は八重樫季良(きよし)さん。花巻市の知的障がい者支援施設「ルンビニー苑」で生活しています。八重樫さんはダウン症という障がいをもち、知的障がいがあります。八重樫さんがこのような線と色彩の絵画を描き始めたのは、小さな子どものころだったそうです。以来、1956年生まれの八重樫さんは、半世紀にわたってこの様式の絵を描き続け、今も描いているのです。

  美術に詳しい方は、八重樫さんの作品にモンドリアン(オランダ出身の画家、1872〜1944年)などの抽象絵画を連想されるかもしれません。ですが、八重樫さんのこの独創的な表現は誰かの表現様式を取り込んだものではなく、幼いころ、自らの心で見いだした美と秩序なのです。

  私が出会ったころ、八重樫さんはこの自動車シリーズをたくさん描いていましたが、その後同じ様式による「家」のシリーズにテーマが移りました。この10年ほどの間に制作した作品は数百点を数えると思われますが、八重樫さんが子どものころからこれまでに、一体何点の作品を描いたのかを思うとき、この無心の、ただ一筋の道への打ち込みが成し遂げたものの大きさに圧倒されます。

  半世紀にわたって一貫された様式の維持。そして衰えることのない創作のモチベーション。幼いころに直線と色彩が呼び起こす美の喜びを発見して以来、八重樫さんは絶えることなくその美とむつみあい、描き続けているのです。それは、深い永遠の愛のようです。

  人は幸せや喜びを求めるとき、多くの場合、自分がいまだ持たないものを、自らの外から得ようとします。でも人がこれほどまでに、失われることのない喜びを自らの内に見つめ続ける人生が、この世界にはあるのです。私はそのことを知ったとき、いまだ知らなかった人間の世界の無限の豊かさを垣間見ました。
  (るんびにい美術館アートディレクター)

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