2010年 8月 1日 (日)

       

■ 〈介護士日記〉5 注文の多い介護士 畠山貞子

 すべては生きんがため。「60の手習い」とはよくいうが、わたしは60歳で一念発起、講習を受け訪問介護の仕事を始めた。慣れてくると心が通い合い、相手の喜びがじかに伝わるから何とも楽しい。しかも収入が得られる。こんないい仕事はないと、友人にも勧め仲間に引き入れた。

  ところが、20歳のころから悩まされてきた腰痛がここにきてひどくなってきた。朝、起きるとき、座位から立ち上がるとき、なかなか背中が伸びない。流しに長く立つのもつらい。体力の衰えと筋力の低下は否めない。手で背中を触ると、骨が曲がっているのが分かる。骨も曲がって楽になりたいのかもしれない。

  でも、腰が曲がった介護士なんて格好悪いなあ…と思った瞬間、フーッと遠い日の記憶がよみがえった。母方の祖母は90度以上腰の曲がった人だった。わが家に泊まった明くる日、バス停まで送っていったとき、こう言った。「こんなに腰の曲がった人と一緒に歩くのしょすぐねが?(はずかしくないか?)」わたしは思ってもないことを言われたので「そんなことないよ…」と答えながら、何だかとても悲しかった。若いころからの労働がそうさせたのに、恨み言のひとつも言わず、それどころか周りの人にイヤな感情を持たれないかと気を使っていた。わたしはそんな祖母のことを思うと、涙ぐみたくなるのだった。

  そしてわたしは決心した。「少しぐらい腰が曲がったって何も恥ずかしいことはない。自分ができることをせいいっぱいやれば、それでいいんだ。一人ぐらい腰の曲がった介護士がいてもいいじゃないか…」と。

  現在の介護保険を利用してサービスを受けるお年寄りは「自立支援」だからと、何かと目標を定められ計画(注文)通りがんばることを求められる。人は注文する前に、あれこれと注文されるとイヤになるのが常。それで、今までの失敗やら人生経験豊富な介護士の出番となり、腰を伸ばし伸ばし仕事に向かうわたしがいる。これこそ注文の多い介護士かもしれない。

(紫波町)

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