2010年 9月 9日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉324 岩橋淳 「よあけ」

     
   
     
  作者、ユリー・シュルビッツ氏は、1935年、ポーランド生まれの絵本作家です。以前ご紹介した「おとうさんのちず」は、自らの戦争体験から生まれた作品でしたが、ほかにも多彩なテーマを扱ってどれもが高い評価を獲得する名匠のひとりです。

  今週の一冊は、そんな氏の代表作と言っていいタイトル。題材を唐の詩人・柳宗元の「漁翁」に戴いたという本作は、森閑とした湖畔の払暁を描いたもの。

  原作?では、ひとりの老漁師の心境が朗じられていますが、本作では、主人公を湖畔で朝を迎える老人と孫に置き換え、夜明け前後の数時間を描きます。

  音ひとつなく静まりかえった、湖畔の夜。動くものといえば、岸辺に寄せるさざ波だけ。すべてが寝静まり、月の光に照らされた岩肌が冷たく映えている…。

  一本の木の下に眠る、老人と孫。周囲では次第に白み始め、かすかな息遣いがひとつ、ふたつ…。墨を掃いたようなしじまが、小さな生命の目覚めによってうっすらと破られていきます。

  圧倒的な静けさが、わずかなはばたき、そよぎを唯一の「動」として点描させ、湖面にこぎ出すふたりを、静物画の中央へと招き入れる。やがて陽光によって、それまでのモノクロームが一変、あらゆるものが本来持つ、生命の色調を取り戻してゆく。唐詩からイメージされた水墨画的世界と、鮮やかな色彩の西洋画の、融合を見る思いです。

 【今週の絵本】「よあけ」U・シュルビッツ/作・画、瀬田貞二/訳、福音館書店/刊、1260円(1974年)。



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