2010年 9月 26日 (日)

       

■ 〈介護士日記〉9 畠山貞子 復活した薪ストーブ

 「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に…」と、ふと口ずさみたくなる山ふところにTさんの家はあった。わたしの仕事は、認知症になり今の記憶をとどめておけない彼女のために身支度を手伝うことだった。

  下着を脱いだことを忘れて、もう一度履こうとするのを「これはお洗濯するのだから、こちらに置きましょうね」と声がけをし、用意して置いた下着を指し示して「今度はこちらを履きましょうね」と言う。「うん」と素直にうなずくTさんのゆっくりしたペースを見守るのは苦ではない。彼女は櫛(くし)をあて髪を整えると、ほっとした様子。それから、薪(まき)ストーブの席にわたしをうながし、慣れた手つきで薪を継ぎ足すと、ご自分の生い立ちやお父様のことなどおっしゃる。それは何度お聞きしても面白く、飽きることはなかった。

  薪ストーブの火はチロチロと燃え、お釜の湯がシュンシュンと沸き空気を暖めている。そして、何とも言えない薪が燃えるいいにおいがして、訪問するたびに「いいなあ…」という思いが募ってきた。

  先だっての冬はずいぶん寒さがこたえ、新聞配達に行くのが辛かった。寒い玄関に薪ストーブの暖かみが残っていたら出かけるのがどんなに楽だろう…。そう思ったら、どうにも止まらず、来るであろう冬のために準備をはじめたわたしだった。知り合いの大工さんに頼んで薪小屋を作り、第二次燃焼も出来るという鋳物型の薪ストーブを購入して設(しつら)えた。

  はじめは、わたしのすることにあきれ顔の息子だったが、いくばくかの薪を用意。暑い日がようやく去った先日、いざ点火して燃える炎を見、においをかぐと「いいなあ…」の連発。

  鍛冶屋だったわが家には、日詰の町ができたころに造られたといわれる井戸がある。それを「町の小さな文化館・権三ほーる」を開館して間もなく、復活させ使っている。そこに薪ストーブ。これで、「火と水のあるところに人は集まる」のわたしの願いが進みそうな気がする。これはわたしのカではない…。先祖が背中を押し、カを貸しているのかもしれない。
  (紫波町)

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