盛岡タイムス Web News 2010年 12月 1日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉205 伊東幸子 「ぼく、牧水!」

 わが妻よわがさびしさは青のいろ君がもてるは黄朽葉(きくちば)ならむ
                               若山牧水

  小さな旅の予定があり、車中で読もうと角川の「ぼく、牧水!」新書版を買った。若山牧水記念文学館館長、伊藤一彦さんと俳優の堺雅人さんの対談集。これが実におもしろくて、旅に出る前夜すでに読み終えてしまった。「困ったな」と思いつつ、やっぱり旅の荷に入れ、車中でも二読三読。どのページを開いてもひきこまれ、話しことばのやさしさと、伊藤館長さんの専門歌人の奥深さ、堺さんの演劇人の生き方に魅せられて感動した。

  言うまでもなく、牧水といえば旅を愛し酒を愛した超有名歌人。「幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく」を、伊藤氏は「さびしさを歌っているけれど、あくがれが牧水の基本だと思う。あくがれがあるからさびしさがある。コインの表裏みたいなもの」と分かりやすく説かれる。

  明治18年宮崎県坪谷(つぼや)生まれの牧水。東京から飛行機で2時間、列車で1時間、車で1時間半という南国の風土。そして伊藤先生は宮崎南高校で「現代社会」を教えていらして堺さんはその時の教え子という関係の由。さらにお二人とも牧水の早稲田大学の同窓で絆が深い。

  年代的には北原白秋も九州柳川で明治18年生まれ、石川啄木はその1年後に生まれていることを思うと、現代日本の詩才のそろいぶみに目がくらみそうだ。

  私は、牧水の「白鳥は哀しからずや」や「白玉の歯にしみとほる」酒の歌も好きだが「今ははやとぼしき銭(ぜに)のことも思はずいつしんに喰(く)へこれの鰹を」の豪勢な食の歌が大好き。

  伊藤氏の解説、「残りのお金はないけど、明日のことは考えずにカツオを食べよう。人生、昨日のことも取り返しがつかないわけではない。物語を作り替えればいい」。「一寸先は闇」というけれど「一寸先はバラ色」ともなりうる可能性を示される。

  堺さんはNHK大河ドラマ「篤姫」で徳川家定を演じて「今日撮ったシーンをくよくよ考えるより、明日の台本を読む」と言われる。何か大きい力を与えられたような気分で旅の終わりに、上野の森を歩いた。西洋美術館横のユリの大木がさかんに黄葉を散らしていた。掲出歌の己々の心に宿るさびしさの色を思い、短い旅だったけど長い物語を反芻(はんすう)して佇(たたず)んだ。
(八幡平市、歌人)



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