盛岡タイムス Web News 2010年 12月 9日 (木)

       

■ 〈春又春の日記〉19 古水一雄 「第十弐」

 表紙に「通巻第十弐冊」とだけ書かれて題名のないこの日記には、見返しの右側のページに塵日記として
  その一、店頭塵ヲ掃フノ記
          九月三日〜十一月三日
  その二、掃ヒドモノ記
           十一月四日〜廿二日
  その三、掃ヒドモ掃ヒドモノ記
           廿三日〜十二月七日
  その四、掃ヒドモ掃ヒドモ掃ヒドモノ記
               十二月八日
 
と書かれていて、左側には“三十八年 掃ヒドモノ記 塵日記 その二”と表題風に書かれている。
  しかし“その一、店頭塵ヲ掃フノ記 九月三日〜十一月三日”の日記は現存せず、“その二、掃ヒドモノ記”にあたる11月4日から書き始められている。“その一”は通巻第11冊に相当する日記であるが、春又春が意図的に破棄したのか、あるいは何らかの事情により紛失したのかは明らかではない。
  朱書きの通巻番号を日記に書き入れた明治43年末(通巻第44冊)の時点までは現物が残されていたはずである。
  そう考えると“その一”は、春又春の死後何らかの関係で紛失してしまったものであろう。
 
         四日
  下ノ橋憲サン、食傷(あた)リシテカ吐
  キ吐キアカトキニ至ル、タメニヨクネム
  ラレザリキ、朝雨少シク降リテ晴レタリ、
  納豆飯三ワン、干菜汁三ワン
  「明治三十三日記抄」ナド手帳ヨリ写シ
  居レバ雨サラサラト降リ出シテ帳場ホ暗
  クナレリ(以下略)
 
  “その二”も11月17日で途切れ、“その三”もまた省かれて(これは通巻第13冊として独立させている)、同じ日記帳の途中から“掃ヒドモ掃ヒドモ掃ヒドモノ記 塵日記 その四”と表題をつけた日記が続いている。
 
  掃ヒドモ掃ヒドモノ記
  「掃ヒドモ掃ヒドモノ記」ノツゞキナリ
  筆デ書クノハ店頭ニ適シナイ
  店頭忙居紅塵掃ヒツゝ書クハ鉛筆ニカギ
  ル
  志(思)想ガカタマリ短歌ガカタマリ何
  ガカニガカニカニカタマリテ後ニ筆ヲト
  ルベケレ、
               短歌 十六
             俳句 百四十四
 
と序文を書いている。
  今回は、“その二”を書き終えて、和綴じに“掃ヒドモ掃ヒドモノ記”を筆で書いていったが、やはり筆書きは店頭では来客や掃除で中断することもあったりして適しないと感じたのだろう。そして、鉛筆書きに戻して“その二”のあとに“掃ヒドモ掃ヒドモノ記”を書き続けることにしたのである。
  “掃ヒドモ掃ヒドモ掃ヒドモノ記”の初日・12月8日の日記の一部を次に書いておくことにしよう。
 
  七起床、朝飯、納豆、干菜汁、飯三ワン
  午飯、午旁(ごぼう)トたつくり、すゞ
    (じ)子、飯二ワン、湯漬二ワン
  夕、志び、すゞ子、大根と志び汁、飯    四ワン
  間食、干柿五ツ、
         
  春又春の食事をみると朝食は質素であるが、夕飯は志び(マグロ)や筋子・大根とマグロの汁物となかなかの食事内容である。
 
  さて、24日の日記には突如現在の心境を吐露する文章が書き付けてある。長文ではあるが、春又春の本根を知る記述として書いておきたい。
 
  (前略)金ヲモウケル目的ノ為メニ自分ノ一生ヲ暮タシテ仕舞フノカ、アー、アー、アー、今ハ二十一歳ダ、来年ハ廿二歳ダ、イヤダイヤダ、帳場ノ塵ハイヤダ、商人ハイヤダ、独立スルノダ、静思ノ人トナリタイノダ、美ヲ楽シミ度イノダ、人格ノ人トナリタイノダ、
  好シ、狂セヨ、奮闘セヨ、
  家業ダ家業ダ、家督ダ家督ダ、夜半悚然(しょうぜん)トシテワガ一生ヲ想フ、アゝ吾レハ商人デアルノダ、銅臭ノ人ナノダ、ワガ家ハ田舎ノ小間物店デアルケレド余ハ祖父ノ恩ヲ忘ルゝモノデナイ、アゝ祖父ハコノ一小間物店ヲコレマデノ株ニ仕上グル迄粒々辛苦ヲセラレタデハナイカ、一度ビ京ヲ去ツテ帰ツタノモ祖父ヲ恩ヲ思フタアツタケレド、アゝ男子四方ノ志、時々何ノ小間物店ト思フ、余ハドーセコノ小間物店ヲ離レテ独立スル志デアル、一面ニハコノ店モ益々繁盛シテ何ノキヅモ無イヤウニシタイノジャ、余ノ弟ヲ見ルニ櫓古人モ商人ニサセ度クナイ、ぶろさんヤろし志よカニコノ店ヲ守ラセヤウト思フ、ぶろさん十三、ろししょ十一、十年を持ツテ余ハ飛バムカナ、而シテ始メテ吾ガ詩成ラム
 
    櫓古人  次弟・庄次郎のあだな
    ぶろさん 三弟・庄三郎のあだな
    ろししょ 四弟・庄四郎のあだな
 
  商人としてこのまま家業を続けることへのためらいと、祖父が築いてくれた身代を守っていかなくてはという思いが交錯して書き連ねられている。上京して正則英語学校に学んでいながら、祖父の死によって帰省を余儀なくされたのも家業のためであったことを初めて日記に書き付けている。


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