盛岡タイムス Web News 2011年 3月 25日 (金)

       

■ 〈胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉17
  八重嶋勲 かかるめっちゃな句は…

 ■岩動孝久

  32巻紙 明治32年10月12日付
宛 陸中盛岡市四ッ家町猪川様方 野村長一・猪川浩両兄 硯北
発 露子迂人
 
抱琴ぬしのたより送り被下って納め参らす候。次に御句盲評仕候、あやめもわかぬこノ闇に居る迂生、当ると否とは諸子の明眼にこれあるべく。
轉らざる水車の前や蕎麦の花
    最も拙なる句と存候、轉らざるは
   何と読むものにや、廻らざると読む
   ものなるべきか、又前といふ語だる
   く小さき場処ながら蕎麦にはつり合
   はずと存候、
藁つんで荷車通る花野かな
    藁つんではあまり働ある句にも候
   はず、下五七陳腐の厭あり、
朝霧や水車の廻る川向ふ
    朝霧と申すは水車の廻る川向ふと
   は解し難し、むしろ水車の音などす
   る方にはあらざるか、余句あり、朝
   霧に水車きしる小村かな、一讃を拍
   せんかな、
大輪の菊一つ咲く花壇かな
    こは面白き句には候へども炎天か
   の句にありし様なり、なほ、大輪の
   黄菊ゆヽしき花壇かな などでは如
   何、
牛通る片山道や夕紅葉
    連立ちて崖ゆく鹿や夕紅葉 にあ
   る点似通ひたりしかる及ばざる遠
   し、淡雲の通り過ぎたる花野かな
    曽て君の句として見たることあり
   き、花野に初五七調和なしと曽もい
   へる心地す、
水涸るヽ滝の紅葉や夕月夜
    随分変なこともあるものに候、滝
   の紅葉するとは君の意は滝より両側
   にある木の紅葉するとの事なるべく
   も、しか聞えず下五も働かず、
大輪の白菊作る鉢の数
    何の事やら一度読み下して解せ
   す、二度読んでやヽ解せり、先づ先
   づ一頭地を抜くものとや申さん、
夕日さす洋舘の窗や黄菊咲く
    窗に黄菊咲くもめづらかなる事に
   候、呵々、
右へ廻る渡の道や蕎麦のさく
    君の句に候や、三郎の句には候は
   ずや、かヽるめっちやな句は君に似
   合しからず、句と云ひ得ずと存候、
   大体にして想は陳るれどよし、かく
   直してはいかが、在して渡に出たり
   蕎麦の花 渡の道といふもいかヾ
   候、
川尻に白き蕎麦咲く廣き土手
    蕎麦は廣き土手に咲くにや、川尻
   に咲くにや、想よけれどめっちやな
   り、直さるヽをよしとす、
両側に草の實結ぶ土橋かな
    両側をかして先の口くせならずや
   など思はるれば陳にもや、
両側に草の實結ぶ汽車の道
    前句より陳ならねどよくもなし、
   下五ものする君の手腕として感せず
   候、
それから。
朝月を猟男下る紅葉山
    随分思ひきったる句なり、全体に
   於て明ならざことは論なし、君得意
   にかヽる詩境をふり廻せどあまり感
   服せず、
霧深き五重の塔の紅葉かな
    陳とおっしゃるが陳とは存ぜず、
   たヾ霧に紅葉があまりうれしき配合
   にあらずなど思はれ候、
稲を干す小高き岡の紅葉かな
    岡の紅葉もうれしからず、稲を干
   を小高き岡は無難なれば下五変へら
   れてはいかに、
   余も句あり見て通る。…
洋舘や紅葉に小さき硝子窗
    中七、何の事にやら。されどこの
   句君は信じては居らずや、下七五き
   がざれば賞したけれど能はず候、呵
   々、
霧の香や紅葉の山の石鳥居
    何の事やら蕪村句集の様に講義し
   て貰はねば分らず、
焼山の岩間小さき紅葉かな
    前同断、
夕霧や小城の上を渡る雁
    初五不用、月更けて遠き小城や雁
   渡る などいかにや。
大輪の朝顔一ツ咲きにけり
    句はすらりしてゐるけれどとるべ
   からずあるは君信じて居らん。
菊咲くや都の隠者かくれ給ふ
    すいてきかなくなれど怖からず
   候、いやみたらげと自信して居らる
   るや、さはなけれど調和がない、否、
   全体を通じて下五も中七も初五もふ
   つり合なる様なり、再び言ふか文に
   ならず、
裏山の木立出づれは蕎麦の花
    裏山の木立出ればなるほどそれも
   いヽかしら。星月夜とすると奇抜だ
   がかくすると平凡になるのは御承知
   なら初五七進上仕候、呵々、
大寺のうしろや蕎麦に暁近し
    何とおっしゃる、聞えませぬが、
小説を読むはよき句と悪しき句とをぬき申すべく。
妖星や女●るヽ芒原
    閣下今回の白眉。いさヽか、難を
   申せば中七、やヽ力なきならんか、
   文庫で一寸見た様な句なり、いか
   ヾ、
朝寒や眉刺る寺の若き尼
    □れかく無断に直し候、首肯さる
   ヽや、
傾城の身元を語る夜長かな
    とことなくだるき心地す、
小説を得意の人却りて不成績なり、何の故にや悪しき句とて撰み候となり、他はみな如ざるべからず、こにわづらわしさを以てはふき申候、
今日ほとヽきす待たりしも参らず、日本に廣告あるや、至急一報被下度候、
尚ほ小生宛の書状来らばおしまい置下され度候、迂生出盛は多分十四、五日なるべし、
妄評眞に多罪とや申すべき。匆々
        露子迂人(岩動孝久)
   菫村(野村長一)・箕人(猪川浩)
   おふた方様
              まゐる、
 
  【解説】原抱琴からの手紙で「別紙露子兄へ御届被下度候」を岩動露子に届け、それを確かに納めた、という便り。多分野村長一(菫村)作の俳句と思われるが、二十六句について批評をしている。かなり辛辣であるが、これが真の俳友の評言というものであろう。そして正岡子規主宰の俳誌「ほととぎす」を心待ちにしているのである。

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