盛岡タイムス Web News 2011年 3月 31日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉27 古水一雄 銘酒花巻、床の間に飾り御出で待ち申し候

 見開きに“温泉行”と筆書きされたこの日記は、文字通り大沢温泉(現花巻市)に湯治に出かけたときのことを中心に9月17日から10月3日に至る17日間が書き継がれている。
 
  9月19日に雲軒がやってくる。下小路の岩谷稲荷で開かれた俳句大会のことや、12月に碧梧桐が来盛するといった話のなかで、雲軒から温泉行きのことが語られる。
 
     
  春又春日記「第二十二」  
 
春又春日記「第二十二」
 
    雲軒曰、銀行一週間ノ暇ヲ貰ツタカ
   ラ温泉ニ行カヌカト、温泉ハ繋(現盛
   岡市)ニセウカ大澤ガヨカラムカ、室
   ガ奇麗ダカラ新鉛(現花巻市)ヨカラ
   ムナド語ル、居心ハ馴染ダカラ大澤ガ
   一番ヨカラムトイフノデ大澤ニス、出
   立ハ明日ノ月(意:ここでは法事の
   こと)ヲ済マシテ明後日ノ事ニス、
 
  と、とんとん拍子に話は進み、行き先も大沢温泉ということにまとまったのであった。この頃雲軒は盛岡銀行に勤めていたのである。
  出立前日の夜に東風がやってきて鶯宿温泉(現雫石町)に行かないかと誘いにきたが、大沢温泉に行くことを話すと、東風も日曜日と秋季皇霊祭の連休を利用して行くことに話が決まる。
 
   (二十一日)
    五時起床、シタシタ寝(ママ)ムラ
   ズ、朝飯芋の子木の子汁、ヨベノヌク
   タメ(意:温め)汁なり、納豆、飯三
   ワン、櫓古人(次弟)已ニ起キヌ、雲
   軒来ル、釣竿持参、
    中折帽、荷物、行李一、カバン一、
   笊ヲ風呂敷ニ包ンダモノ一、あみカバ
   ン一俥ニテ先キニ停車場ニヤル、停車
   場路霧ガフツテ居ル、愛宕山モ岩山モ
   朝霧ノ中ダ、羽織、
    袷、つゞみ(ちぢみ)ノズボン下ヲ
   膝カラ上ニマクル、シャツハ二枚カサ
   ネテ着タ、寒空ノ句モ考ヒジニ停車場
   ニ入ル、幡街(八幡町)ノ芸子一行モ
   何処カニ出カセギト見エル、山陰主人
   モ俥ニテ来タ、大槌ニ出立ナノダ、七
   時十五分発、窓ヨリ見る山々霧、日ガ
   射ス頃花巻ニ着、茶屋ニ小憩、山陰主
   人馬車ニ乗ル、握飯二ツ、もなか饅頭
   五六、盛岡ヨリノ大妓小妓モコゝニ憩
   フテ馬車ヲ待ツ、大迫ニ竹内某トカ来
   ルノダソーナ雲軒持参ノ「天明俳句集」
   ナド見テヒマヲツブス、荷物ニ馬頼ン
   ダラ荷馬車ガ来タ、大澤マデ四十五銭
   ハ高イ、亭主ニ玉子モ世話シテ貰フ、
   一ツ二銭三十買フ、はきごハ宿カラカ
   リタ、荷馬車ガ立ツ、余等モ立ツ(以
   下略)
      
  早起きして朝食もそこそこに旅支度をして停車場に急ぐ。荷物が多くてとても人手では間に合わないので、荷馬車に積んで運ぶことにして大沢温泉を目指す。13`ほどの行程を3時間かけて歩き大沢温泉に着く。

  早速温泉につかり、一息つくと櫓古人と久保寅主人に便りを書く。久保寅主人には、
 
    花巻にて知る人これ有り候て、銘酒
   花巻二本さづけられ候一本づゝたもと
   にいれ候て重たがりて持つてまいり
   候、いまだ口を抜かず候床の間にかざ  り置きて候て御出で待ち申し候、
    山は赤く候、川音は高く候、 草〃
 
  大沢温泉はいわゆる湯治場で、ご飯だけは宿から出され汁と副食類は自分たちで作るという方式になっていたようである。そのためか様々な品物を売りに人がやってくる。
 
   (二十三日)
    根深ト大根ト賣リニ来タ、豆腐賣の
   あばたが来タ、一丁買フ、コレハ晝ノ
   分ダ、夕(ゆう)ノ分モ頼ンデヤヤル、
   茶ヲ喫シ終リテ椀ナド洗フ、あばた女
   又来タ、夕ベニハ来ヌカラ今置イテ行
   クトテ一丁置キ去ル魚賣女来ル、モツ
   ペ、(もんぺ)蝙蝠傘、何カアルトキ
   イタラ、節トいかニしほマスダアンス
   トイフ(略)
    菅笠ニ茣蓙ノ鉢巻男、林檎カ栗カ黒
   葡萄ハイランカイトイフテ来ル、栗一
   升生ナノガ十七銭、煮タノガ十八銭ダ
   トイフ、煮タノ一升買フタ、もンペ林
   檎賣ガ来タ、何処デモ買ハヌラシイ、
 
  と、いった具合である。

  そうこうしているうちに武蔵君が櫓古人、蕪櫓山(三弟)と雨の中をやってくる。栗拾いや釣りに興じて数日を過ごし休暇が終わって帰っていくと、入れ替わりに祖母や従妹のお苗さんたちがやってきて、茸狩りや栗拾いをしがなら日を過ごす。

  こうして2週間に及ぶ湯治を終えて10月3日に雨の降りしきるなか帰宅の途についたのであった。

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