盛岡タイムス Web News 2011年 4月 3日 (日)

       

■ 〈3・11不屈の意志〜立ち向かう岩手人〉斎藤徳美氏 復興には大胆な発想を

     
   「行方不明者の捜索、被災者支援に加え、将来を見据えたまちづくりの方向性を描く準備も着実にしていく必要がある」と訴える斎藤徳美氏  
 
 「行方不明者の捜索、被災者支援に加え、将来を見据えたまちづくりの方向性を描く準備も着実にしていく必要がある」と訴える斎藤徳美氏
 
  防災工学が専門の斎藤徳美氏(66)=岩手大名誉教授、放送大学岩手学習センター所長=ら岩手大学の調査チームは先月28日、津波で甚大な被害を受けた沿岸自治体を視察した。岩手山の火山防災では産学官やマスコミを巻き込んだ減災の仕組みづくりを推進した斎藤氏。甚大な災害を乗り越え、次の一歩を踏み出すために今、求められているものは何か、話を聞いた。(馬場恵)

  三陸沿岸には大きな津波が50年に1回は襲来している。「想定外」では済まされず、人が生きている間に1、2度は体験する日常の自然災害という位置づけで対策を考えなければいけない。

  阪神淡路大震災は被災地域が限られていた。今回は岩手、宮城、福島の3県を中心に被災地が広範囲にわたっているハンデがある。多くの人が水産業を生業としている地域。海と切り離しては生きられない。漁船、漁具が大量に流出し、しかも担い手の中心は高齢者。いかに産業を復活させていくか。

  さらに防災施設はことごとく破壊され、いつ再来してもおかしくない津波に対し丸腰状態。非常に厳しい局面だが、生業の復活、安全確保の両方を解決しなければ「復興」はあり得ない。行方不明者の捜索、被災者支援が急務であることは当然だが、新しいまちづくりの青写真なくして国への復興要請もできない。住んでいる人たちが、どのような地域を作りたいか、シンクタンクや専門家の力も借りながら具体的に示していく必要がある。

  手をこまねいていれば、なし崩し的にまた同じ場所に同じような建物が建つ。そんな「復旧」で良いはずはない。全世帯を高台移転させるのが現実的でないのであれば、建物などにできる限り防災機能を加味し、高い防災意識を持った人が住むまちを築いていかなければ。余力のない自治体に対しては行政のプロを多数派遣しフォローすべきだ。

  北海道十勝岳の火山災害が想定される地域では、低地の市街地に盛土をして泥流から避難できるエリアを設けている。三重県大紀町など、低地に高層の津波避難塔を建て備えているところもある。

  住宅は鉄筋高層住宅に限定し、いざという場合は高層階へ逃れる、集落ごと内陸部に移転する、新たな条例で都市計画をやり直すなど、従来の考えにとらわれない思い切った発想が求められる。大胆な考えが示されてこそ、そのデメリットが議論され、現実的な知恵も浮かんでくる。

  集落やまちのコミュニティーを保つことの重要性は、阪神淡路大震災の教訓として学んでいる。分散的な避難ではなく、集落のコミュニティーを保ったまま、一時的に内陸部へ移り、次の地域づくりに向け、合意形成の道を探っていく方法も考えられる。

  いずれにせよ、こうしたことは県の非常に強いリーダーシップが必要。知事はもちろん、防災や災害復旧の担当理事を置き、専門家も加えた部局横断的な検討体制を立ち上げることも一つの方策だろう。

  地元大学の頭脳の活用もカギを握る。日々、大災害をイメージして研究しているわけではないにしろ、被災地域の広さ、津波の破壊力の大きさを肌で感じ、どう対応していくべきか認識を共有しておくことが不可欠。視察に参加した研究者には従前とは全く異なる新しいセンスでまちづくりを考えてほしいと伝えてある。

  最新の建設技術をつぎ込んだ水深63bの湾口防波堤、「万里の長城」と称された防潮堤も、災害を防ぎきることはできなかった。昭和の三陸大津波以来、およそ80年かけて積み上げてきた津波防災を一時にしてくつがえされたことは研究者の一人として忸怩(じくじ)たるものがある。次世代が安心して暮らせるまちづくりをしなければ犠牲者は浮かばれない。

  沿岸部だけでなく県全体が大きな災害に見舞われていると自覚し、内陸部も一体となって支援、復興に向かうこと。不幸な災害から共に手を携えて立ち上がり、生きていく認識を共有することが明日への希望につながると信じている(談)。

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  岩手大の調査チームの視察には斎藤氏のほか、同大教育学部の土井宣夫教授(火山防災)、農学部の広田純一教授(田園計画)、工学部の南正昭教授(都市・社会基盤計画)と越谷信准教授(地質学・自然災害科学)、小笠原敏記准教授(海岸工学)が参加。自衛隊車両で陸前高田市から国道45号を北上し、宮古市田老町までの沿岸被災地を視察した。

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