盛岡タイムス Web News 2011年 4月 12日 (火)

       

■ 〈潮風宅配便〜三陸の津波被災現地から〉33 草野悟
    この子をわたしは忘れないだろう

     
   
     
  たぶん私はずっと忘れないと思います。この写真の子は小学校4年です。手に持っているのは単なるバッグではありません。そのお話をいたします。

  4月5日、ある被災地に出向き、お寿司とギョーザと日本そばを出前しました。当初漁協さんから100名くらいの子どもたちに頼みます、との話でした。100人前の握り寿司(ずし)の準備は寿司職人1人ではかなりの重労働です。ところが前日、近隣に話が伝わり「すみません、200名くらいになってしまいました」との電話。ギョエー、と仲間一同大慌て。私も盛岡のマックスバリュさんにお願いし、大量のマグロやサーモンを無償提供いただき早朝出発です。

     
   
     
  鮨(すし)屋のおかみは、朝2時から家庭用の一升釜で10回寿司めしを炊き、だんなは卵焼きやら寿司ネタをトレーに準備。戦場です。マグロ3種類600枚、エビ、イカなど全部で予備を入れて2000貫ほど準備しました。漁協の3階に運び握り始めたのが正午です。午後3時開催になんとか間に合わせました。続々と入ってくる子どもたち。会場は被災地というよりお祭り会場のようでした。口いっぱいに頬張り、笑顔、笑顔の輪が広がっていきます。

  ところが、何一つ食べようとしない子どもに気付きました。「どうした、食べないの」「うん、お昼食べ たから…おじさんタッパに詰めて」「え、タッパ?持ってきたの」

  「持ってこない。タッパないの?」とても小さな声です。つぶらな瞳って、この子のような瞳なんだなと思いながら、「家に誰かいるの」と聞きましたら「お父さんは浜に行って津波の木を切ってる」と返ってきました。

  大量の流木やがれきの木材を片付けているようです。「家の人はみんな大丈夫だったの」「うん、誰もけがしなかった。おじさんこれも持って行っていいの?」とギョーザを指差します。余計な詮索はしないことにしました。

  一人7貫とギョーザ2個、日本そば、チョコレート菓子1個と決めていましたので、本当はたくさん詰めてあげたかったのですが、「ごめんね、ぼくの分だけ詰めるね」と言いますと「うん」とうなづきます。

  そこで手に持っていた小さなバッグを私に差し出しました。トレーにラップをし、袋に入れました。お菓子はこっそり2個入れました。お昼からとうに3時間以上過ぎてますから、この子の「お昼食べたからお腹いっぱい」は当てはまりません。

  他の子たちは猛烈に食べてます。それでも何ひとつ食べようとしません。周囲に友達はいません。じっと終わるまで待っていました。ご家族に7貫だけではと思うとつらくなります。でもこの子はルールを分かっています。この瞳と小さくても温かな心があれば、きっと誰よりも強い男の子になると信じています。「小さな力」に涙腺破壊です。
(岩手県中核観光コーディネーター)

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