盛岡タイムス Web News 2011年 4月 21日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉352 岩橋淳 富士山にのぼる

     
   
     
  著者は、登山家・冒険家・写真家・文筆家。筆を執っては開高健ノンフィクション賞、写真を撮っては土門拳賞を受ける才人であり、昭和の小説家・石川淳の孫という貌(かお)も併せ持つ人でもあります。その石川さんが、誰もが知っている、けれどそうそう登るものではないニッポンのシンボル・富士山への旅へと誘(いざな)ってくれるのが、本作。

  「とおくから見ているだけじゃ、つまらない」と、冬の富士登山(実はかなり厳しいものであると言われています)を企図する、そこは冒険家。

  2本の脚で大地を、雪を踏みしめながら、あるいは空からの瞰めも織り交ぜて、たどる頂上への途。雪と言うよりは氷の斜面。上がる標高に反して下がって行く気温の中を黙々と、慎重に、けれどリズミカルに歩を進めるテクニックは、数々の冒険行から体得した技。

  強風の中、一夜を明かすテントの中で思い起こすのは、天上とは打って変わった、裾野の豊かな緑。清流。悠久の流れの中で培われた「氷穴」の、水玉の滴り落ちる一音、一音。「風穴」を強く弱く通り抜ける、風の音。夜が明ければ一転、目指す頂上への途上に現れるのは、火山としての荒涼たる風景と、そこに根ざす一輪の花のコントラスト。

  そして、目指す頂は、ふいに眼前に開けるのでした。

  …そこに佇(とどま)った者にしか分からない感慨については、筆の及ぶところではありません。

  【今週の絵本】『富士山にのぼる』石川直樹/写真・文、教育画劇/刊、1365円(2009年)。

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