盛岡タイムス Web News 2011年 4月 23日 (土)

       

■ 〈詩人のポスト〉吉野重雄 送る〜三月十一日十四時四十六分

 送る │三月十一日十四時四十六分│
          
              吉野 重雄
 
あの日
北へ帰るはずの白鳥の群れが
雪の消え残る田んぼの上空を
西へ東へ
うろたえたように旋回していた
 
北上へ向かう車の中で
突如
ラジオから流れる緊急地震速報
ハンドルが全く利かず
急停車して飛び出した頭の上で
縄跳びの大波小波のように
太い電線が揺れていた
 
コンビニの駐車場は
先を争ってなだれ込む車で溢れ
繋がらないケータイに苛立ち
狂ったようにアクセルを踏んで
急発進していく若者の脅えた顔
 
交差点の信号は全て消え
早い者勝ちの無法地帯と化していて
やっと帰り着いた家は暗くて寒い
電池の乏しいラジオにしがみ付き
明けない夜を明かした
 
あの日から
北へ帰る白鳥たちを
送ることを忘れ
渡りながら鳴き交わす声に
心惹かれることも
なかった
 
秋には
また戻って来てくれるだろうか
 
呆けたように庭に立ち
かつて
三年を過ごした三陸の町のことを
思い返している
港の船だまりには
ウミネコの群れが
白い紙切れを撒き散らすように
いつも乱舞していた
 
見送ることも
別れを告げることもなく
黙って
遠いところへ行ってしまった
人たちのことを
ただ
思っている

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