盛岡タイムス Web News 2011年 5月 11日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉238 伊藤幸子 明日への祈り

 運不運 とにかく生きていなければ
                   渡辺美輪

  このほど東日本大震災川柳集「明日への祈り」現代川柳臨時増刊号を頂戴した。4月20日刊「現代川柳」編集発行人の曽我六郎さんの「あとがき」を読む。「3月11日夕刻から、時実新子の5回忌の集いを営む予定で、柳友たちが会場の準備にあたってくれていた。午後3時ごろ、当日出席予定だった各マスコミ関係者達からあいついで『仙台方面大地震、各社緊急体制に入ったので新子忌には不参』との電話があり、新子忌は中止とした」とあり、16年前「平成七年一月十七日 裂ける」の句を作られた時実新子さんのもと、阪神淡路大震災句集「悲苦を超えて」を発行した体験を述べられる。

  「あの時のように、この大震災をみんなで詠みたい。川柳作家ならば詠まずにいられないだろう。がんばって小冊子を作りたい…」との渡辺美輪さんの提案で116人の作品が集まり完成したこの句集。明るい海の青色の表紙、86頁の軽装判である。阪神西日本在住の方が多いがみな「あの時」の自分をリアルに留め、緊迫感に満ちている。

  「天も地も揺れる地球が身もだえる」夕凪子。「あれよりもひどいとはるか神戸から」野口多可。「見たくないはずの悪夢にくぎ付けに」小西松甫。「流されたポストよ人の魂よ」加藤修。「しぶとくも天地に生きる放射能」曽我六郎。「大津波歎き原発憤る」杣游。岩手を詠まれた二句。「春の陽を分けたき人のいる岩手」菅沼けい子。「ふるさとは震える声で岩手です」清水釦。青森、福島、宮城から「心走っているがガソリンがない」岡田千加子。「ある日凶器に変わる壁の裏切り」安斎みぎわ。「奇跡の娘生還  亡兄に守られて」三浦昌子。「仙台市荒浜地区で哭くカラス」山河舞句。

  私は毎年3月10日の新子忌が近づくと「うららかな死よ その節はありがとう」と刷られた追悼集を机上に、種々のご著書を読み返すのを習いとしてきた。今年は「花の結び目」から「詩は別才にあり。作らざる書かざる詩人がうようよ居る中で、書くという作業は一つの天分である」として、才華の昂(たか)ぶりに惹かれた。また「れんげ菜の花この世の旅もあと少し」を引かれ「発信基地を自分に置いている限り、一句は百行の文よりも雄弁」との章にも感銘。78歳で逝かれた新子さん、今回の大震にあわれたらどんな風に詠まれたろうか。うち続く余震に、菜の花の黄もくすみがちである。
(八幡平市、歌人)


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