盛岡タイムス Web News 2011年 5月 12日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉30 古水一雄 通巻第二十五巻午去未来記

 日記「通巻第25冊 午去未来記」は、12月9日から12月31日までが記されている。そして碧梧桐の来盛は雲軒によってもたらされる。
     
  「通巻第25冊 午去来未記」  
 
「通巻第25冊 午去来未記」
 
 
   (十二月十五日)
    (前略)雲軒氏来談、碧梧桐氏今夜
    十二時宮古ヨリ馬車ニテ来る由、宿
    ハ紺屋町三嶋屋
    明朝訪問セムガ如何云〃、去ル、
 
  “碧梧桐氏”とは、河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)のことである。碧梧桐は正岡子規の高弟で野球を教えてもらおうと高濱虚子(たかはまきょし)とともにいち早く子規のもとを訪れ、さらには弟子入りして文芸活動もともにするようになった人物である。
  子規の没後、短歌は伊藤左千夫が、写生文(詩・散文・小説など)は高浜虚子が、そして俳句は河東碧梧桐が引き継いだかたちになったのであった。少し詳しくこのあたりの経過を述べることにする。
  伊藤左千夫(いとうさちお)は本業が搾乳業である。万葉集に深く関心を抱き、万葉集を基盤として短歌の革新を目指した正岡子規に共鳴して根岸短歌会に参加した。子規の亡き後根岸短歌会の写実的万葉調を継承して「馬酔木(アシビ)」を創刊し、与謝野鉄幹・晶子らのロマン的明星派に対抗する一勢力として活動したのであった。
  高浜虚子は松山で発行していた「ホトトギス」の編集を東京に移し、小説や写生文を中心とする本格的な文芸活動をした。夏目漱石をはじめとする多くの小説家に活動場を提供し、また虚子自身も「斑鳩物語」「大内旅館」などの小説を掲載したりしている。
  河東碧梧桐は、新聞「日本」で子規が記者として勤め、俳句欄の選者を担当していたが、子規の死後それを引き継いでいる。さらにその俳句欄が雑誌「日本及び日本人」に移ると、いわゆる「三千里」の俳句行脚の旅を二度にわたって行い、新傾向の俳句を全国に広めていった。盛岡には最初の三千里行脚の途中宮古を経由して立ち寄ったのであった。
     
  河東碧梧桐  
 
河東碧梧桐
 
 
   (十二月十九日)
    朝三島屋ニ碧梧桐氏ヲ訪フ、座ニ雲
    軒在リ、思フタ程ノイカメシイ髭デ
    無イ土産ニ林檎、絵葉書ナド、十時
    辞ス (中略)
    今日碧先生ニ會フ、日記ノ好材料捨
    テゝ顧ミズ、否、何ソ記サムカ恥ヂ
    カシ(はづかし)ナガラ空虚ナリ、
    コンナ奴ガ何ノ顔サゲテ先生ニオ眼
    ニカカリタルカ、先生ノ清閑ヲ二時
    間モ邪魔シタカ、思ヒバ吾レナガラ
    自分ノ不肖ニアキレ果テル、モウイ
    ゝ年ヲコンナ日記ハ見ラレタモノデ
    ナイ、
 
  この日の夜にリンゴや絵はがき等を手土産に三島旅館の碧梧桐を訪ねる。先客には雲軒もいた。どんな会話があったのかは些細は記されていないが、満足できるような内容ではなかったことが日記の記述から推察でできる。日記の文面は、1日の分量としては比較的多めなのだが、碧梧桐にふれた部分はかなり断片的といえる。
  むしろ、自分の日記が取るに足らないものであるかを綿綿と述べているのである。
 
    (中略)自分ノ日記ノ趣味ノ無イ事、
    ソレヲ思フト一行モ筆ガ進マヌ、マ
    ヅイ文字ワケノワカラヌ文章、時〃
    火中ニ捨テ度ク成ル、ケレドソレ程
    ノ勇気モナイ、万巻読破シ万里ノ道
    ヲ行カズンバ日記竟ニ兒戯ノミ、万
    難ニ遭遇シ、万苦ヲ経過セズンバ作
    詩竟ニ兒戯ノミ徒ラニ閉戸書ヲ讀マ
    ズ、何ノ日記カアラム、何ノ詩カア
    ラム、
 
     碧梧桐氏曰ク盛岡辨(弁)ハ京都ニ
    似テ温和デ、仙台ノヤウニ荒クナク
    テ聞イテ居テ和(なごや)カデアル
    云〃、ケレド時〃話ガワカラヌ云〃、
 
      みちのくの馬かひ人が馬飼ひの
      馬飼ひことば君きゝ知るや
           [注:紅東の短歌]
 
     碧桐氏の髭かいぜるカト思フタニ
    支那髭デアツタ、支那髭ナ処ガ悠長
    デトンマナ所ガアツテ所謂ムダガア
    ツテ俳句趣味ト思フハイカニ、
 
     碧梧桐、氏曰クワケノワカラム処
    に趣味ガアルソージャ
 
    岩手公園ノ上りテ南部片富士ヲ望ム
                 碧梧桐
    片ふじの片そぎや雪の峰つゞき
 
    花奴(注:八幡町の芸妓)ニ示す
                   同
    句を望む君ト師走のいとまあれ


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