盛岡タイムス Web News 2011年 5月 22日 (日)

       

■ 〈東日本大震災〉見守るのは一本松 菊池如水さん高田松原を描く

     
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  藍色一色で自然を表現する画家として知られる菊池如水さん(89)‖盛岡市西仙北二丁目‖が16日、陸前高田市を訪れ、津波で消失した高田松原の心象風景を描いた。高田町内にあった「ジャズ喫茶ジョニー」のマスターだった照井顕さん(64)‖現・盛岡市開運橋通、ジャズスポットショニー店主‖と親交があり、陸前高田にも震災前からたびたび足を運んでいた。海岸線が一望できる気仙川河口の高台に座った菊池さんは、照井さんのギターの弾き語りに耳を傾けながら、鎮魂の思いを表現した。

 高台からは、津波に耐え、唯一残った「一本松」が正面に見える。40年以上、陸前高田で暮らした照井さんが「松が一番近くに見える場所を」と選んだ。

  8万本の松が茂り、濃い緑色の林と白い砂浜、青い海のコントラストが美しかった名勝の面影は既にない。目に入るのは外枠だけ残った鉄筋コンクリートの建物とがれきのうず高い山だ。「スケッチではない。心にある風景を描くんだ」と菊池さん。地面に120号(縦90a、横180a)のワトソン紙を広げ、愛用のプルシャンブルーのオイルスティックを握った。

  照井さんと菊池さんの出会いは17年前。大船渡市内のNTTの支店で菊池さんの個展が開かれ、その懇親会の席上で意気投合した。邦楽専門のジャス喫茶として全国的に知られた「ジョニー」。菊池さんも店に招かれるようになり、ジャズシンガーの穐吉敏子さんらとも交流した。店に来るたびに、幾度となく松原を描いてきた菊池さんには目の前になくとも、その姿が見えるという。「人生はすべて出会いで作られている。照井君とも、高田松原とも出会いがあってここにいる」。

  菊池さんは北アルプスや三陸海岸など自然をテーマに数多くの作品を制作してきた。今回の震災で菊池さんの愛した三陸の風景は深く傷つき、定宿にしてきた多くの民宿も流された。一方、照井さんも高田町内のかつての店は跡形なく、世話になった知人や常連客の行方さえ「怖くて聞けない」。

  必ず現場に赴き、そこに流れる空気を感じながら描くことを信条としている菊池さん。潮の香り、ウミネコの鳴き声、照井さんのギターと歌、それらを感じながら描くことに「意味がある」と言う。

  約2時間かけて完成した作品のテーマは「津波で残った希望の松から郷愁を重ねたよき日」。波音を聞きながら松林を歩き、その先に広がる広田湾と入り江の山々に出会う。地元の人なら誰もが体感したであろう懐かしい風景がよみがえるようだ。

  菊池さんは、どうしても、もう一度、松原を描きたかったという。絵が完成し「納得した」とぽつり。「人は惑星の中で生きている。ここに飛んでいるカモメも、虫も、われわれも同じ惑星の中で生きている生き物。特別なものじゃない」。あらゆる生命を育む優しさと一瞬に消し去る残酷さを合わせて持つ自然。その強大な力に思いをはせる。

  作品は10月に盛岡市内で開かれる個展で発表したあと、照井さんに贈るつもりだ。

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