盛岡タイムス Web News 2011年 5月 26日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉34 通巻第二十五冊(その2)

 引き続き碧梧桐との関わりについてみていくことにする。12月21日夜、碧梧桐を囲んでの句会が川鉄楼で開かれた。
   
    密〃ノ雪ニ明ケヌ、紛〃ノ雪ニ暮レ
    ヌ、夜俳句大会於川鉄楼開ク、会者
    名ヲ知レル人ハ碧梧桐、雲軒、秋皎、
    三柊、素茗、石楠、楓岡、太郎、鼓
    亭、闇瀬、汪水、蓬雨等二十有人
    初め鴨十句ノ題、ムツカシトテ冬籠
    (ふゆごもり)十句ニ改ム、九時〆
    切、互選十句、結果碧梧桐二十四点、
    紅東二十一点、三柊以下
 
  さすがに碧梧桐の句には参加者全員が選票を投じている。紅東(春又春)の句には21人が票を投じて2番目に票が集まったのであった。
 
   余が選十句
    鴨売ハ三顧の客よふ冬籠
    井篇三度続つ夫子か冬籠   椿堂
    北吹けば時鐘きこゆ冬籠   楓岡
    来年の暦そらんず冬籠    素茗
    集を見て我句たぬしむ冬籠  碧子
    灯を見れハ人なつかしは冬籠 秋皎
    冬籠のおせハ富士裸なり
    行燈に讀みなれし眼や冬籠  秋皎
    めとらずにあるべかりしを冬籠 碧
    行燈の昔を思ふ冬籠     楓岡
    選終リテ批評振ハズ不要領の碧先生
    ト思ヒタリ
 
  各自選句を終えて批評会になったが、碧梧桐からはこれといった的確な指摘がないことが春又春にとっては不満であった。
   
    余ガ作句十首ニ満タズ、漸ク八句
    歌書机俳句机や冬篭
    ちび筆を焚き●て冬を篭りけり
    冬篭先生の朱をなつかしむ
    冬籠矢につく鼡来る夜かな
    冬籠すゝまずなりぬ代匠記
    冬籠閑話休題八犬伝
    萬巻をくづして訪ふや冬籠
    吾が後を著書目録や冬籠
 
    批評ニ上リタル余ガ句ノ内、歌書机
    俳書机雲軒曰机ガ多過ギル云〃、矢
    にフく鼡コレデワカルカナ、矢ニつ
    くトハ矢ノ羽ニツクノデショウナ位
    ノ評ノミ、吾後ノ著書目録や、吾後
    ト云ヒテ吾死後トイフ意アルヤ云
    〃、凡ベテ不得要領ノミ、十一時散
    会、楓岡君、闇瀬君ト共ニ帰ル、
    碧梧桐は四点、紅東は一点、満足デ
    アツタ
 
  句会への参会者一人一人の句について批評しあったのであった。春又春の句は雲軒によって3句とりあげられたが、いずれも字面をなぞる程度で核心を突いた批評になっていない不満はあったものの、碧梧桐の24点に続く21点には大いに満足を感じたのだ。
  春又春の性格からしてこのような自己賛美を書き付けるのは非常に珍しく、翌日の東風との会話でも同様の態度を示して東風を驚かせている。
 
  (十二月廿二日)
    午後東風兄来ル、南京豆、煎餅、茶、
    高点頗ル得意大ニ壯悟シテ兄ヲシテ
    呆然タラシム、今日ノ余ガ眼中碧梧
    桐組スベキノミ、秋皎三柊素茗無シ、
    咄〃、得意爾ノ永〃居ルベキ地ニア
    ラズ、早ク失意ノ境ニ帰レ
 
  得意の絶頂を親友の東風(武蔵)に語り、“自分の周囲で俳句を作る人物は眼中にない、肩を並べる俳人は碧梧桐のみ”と豪語しながらも、その得意は長く続くものではないことを我が身に言い聞かせ平静を取り戻している。まさに春又春流の心のありようといえる。


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