盛岡タイムス Web News 2011年 5月 26日 (木)

       

■ 〈東日本大震災〉増田寛也前知事に聞く 現場に決定権を

     
   
     
  前岩手県知事の増田寛也野村総研顧問(59)は東日本大震災津波について盛岡タイムス社の取材に応じた。増田氏は発災後、被災した各地に入り現場の現状を知るとともに、知事、総務相時代等の知古のチャンネルを通じて被災者支援、復旧・復興に対して現場が求める政策を受け止めている。今はスピード感が求められる重要な局面にあるとの認識で、普及・復興に対し、国の具体的な政策展開を急ぐ必要を唱える。(井上忠晴)

  増田氏は、沿岸の基幹産業である水産業の復旧・復興には国の2次補正について8月以降では「全然間に合わない」と話し、ここ2カ月の重要性を強調。被災地に必要な具体的な政策に対し、国の遅さを指摘した。

  迅速性のため、今回の震災対応では「現場の方に任せて、あとから県が財政的にフォローし、それを国がフォローするという仕組みにしないと、きちんとした復興につながっていかない」と、国、県、市町村という行政の三層構造の中で、現場に決定権を下ろす仕組みへ見直すべきとしている。

  被災直後の広範囲、長時間にわたる停電、福島第1原発事故から、日本のエネルギー政策が問われている中、再生可能エネルギーを伸ばす政策を国に求め、被災地のまちづくり計画に自然エネルギーを位置づけることを提言する。

  以下に一問一答。

  -今回の大震災について、被災県の前知事として率直な感想を。

  増田 声もないくらいで、しばらく震災の後はテレビの画面を見るしかなかったが、痛ましいし、知っている建物が全く何もない。一方で被災地の皆さんがちゃんと整然と列をなしている姿を見ると、三陸の人たちの共同体の強さ、さらにそれ以上に一人ひとりの強さを強く感じた。

  -津波被害ということで行方不明者の捜索が続いている。県内でも依然として約3万人の避難者がいる状況はあるが、復旧・復興をしていかなければならない。三陸沿岸の復興でどのような視点が重要と考えるか。

  増田 復興の議論をするからには、よけいに避難者の生活を支えなければならないが、水産業の回復をとにかく一日も早く進めないといけない。水産業は1次補正でほとんど有効な金が入っていない。
  特に養殖施設は共同施設が除外され、具体的に施設の算出は取得価格ではなく残存価格と、前例にとらわれている。残存価格だったら全部が流されているか完全に破壊されているから、ほぼゼロに近い。国費10分の9と、一見ずいぶん国で面倒みると思うが、高潮で海水にちょっと浸かったときの仕組みなので、本当に水産業を戻そうというと、あれでは浜が全然動かない。そのうち気がついてもそのときは遅い。
  命を守ることでも不十分だが、住まいと仕事、三陸沿岸の復興に重要な視点はまず急ぐものからやっていくこと。加工と漁に出れるようにすれば徐々に動くと思う。そのためには車も急ぐ。足がなくて困っている。高速道路無料化の前に中古車を千台でも2千台でも集めて貸し出さないと。

  -2次補正は8月以降という話もあるが。

  増田 全然間に合わない。この2カ月が遅れると、例えばワカメの収穫は再来年になってしまうから、2カ月の遅れは1年以上、効いてくる。その間に仕事がなくなって結局、地域を離れたりしてもっと荒れてくる。この2カ月間がどれだけ大事か。国でもちゃんと予算化しないとならない。
  水産庁も来ているはずだが声がちゃんと届いていない。国会議員が視察していても政策に反映されていない。沿岸市町村長に国には具体的に言った方がいいと話している。何人かの大臣にも言っているが、みんな前例にとらわれているのでは。県ももっと具体的にはっきり言った方がいい。

  -津波被災のない内陸部では平時の生活ができる状況だが、風評被害などの影響が出ている。どんな打開策が考えられるか。

  増田 まず日本人ができるだけ岩手の内陸にきちんとお金を落とすようなことを全国に見せないといけない。全国の自治体に号令をかけて、全部こっちに来て内陸の方に泊まって、現地を肌で感じてもらうだけでも勉強になる。民間にも話しているが、最初は動きやすいところから。修学旅行もこっちに来てもらう。そうしているうちに海外の人も戻ってくる。
  おかげさまで東京のアンテナショップもずいぶん混んでいる。あちこちで物産展をやってもらい、どんどんこちらから物を持っていくべき。

  -今回の震災では広範囲で停電するなど、電気、ガス、水道など生活インフラが寸断された。原発事故もあり日本のエネルギー政策が問われている。知事時代に再生可能エネルギーの推進に努めたが、地場のものを使っていくことは地域に産業や雇用を興すことにもなる。復興へ取り込む必要は。

  増田 再生可能エネルギーについて岩手は今まで取り組んでいたので大いなる実験場(先進地)にもなり得る。国も電力のあり方の見直しや買い取り価格を固定化して電力会社が買い取ることにやっと目が向いてきた。
  今までは例えば木質バイオマスは林野庁でやっていたが、経済産業省は電力会社にきちんと買い取らせるようなことに不安であまり乗り出してこなかった。CO2の25%削減となると、自然エネルギー、再生可能エネルギーをもっともっと伸ばしていくことが必要。政府は必ずやるべきだし、具体的支援策はもっともっと出していい。
  再生可能エネルギーは量的にはまだ十分にはなり得ないが、ここでやっていけば技術革新とともに全体的に安定的な量に達してくる。今乗らなかったらエネルギー政策を担当する資格はない。

  -街が壊滅的な被害を受けた、例えば大槌町や陸前高田市のまちづくりで、生活インフラから始めるとなれば、地域供給のような施設整備をできる可能性がある。

  増田 総理はエコタウンと言っていたが、口先だけで繕うのはやめにして、ちゃんとその後の政策に結びつけてほしい。今の政権、政権に近い人たちは再生可能エネルギーが大事だと言うが、本腰を入れていない。いきなり東京でやるのは無理なので、(岩手のような)自然エネルギーの源に近いところ、林があったり、海岸線があって風力があったり、冬場を含めて光が多いところ、太陽光は日本海側は難しいが太平洋側はいい。こういうところで政策に結びつけるべきだ。
  大槌町や陸前高田市はこれから市街地をどうするか。海に浸かったようなところやすれすれのところは公的に買い上げるべき。国が買い上げると後が大変かもしれないので、県が買い上げて金は国が出す仕組みで。
  まち再生の面的な計画を作るときは、必ずエネルギー、自然のエネルギーを入れるようなプランニングを。電力が不安定だと困るので、多重性を持たせるようなことをしていかないと。
  国は被災者の人たちがきちんとしたまちづくりの絵を考えるようなことを落ち着いてできるようなところまでやってほしい。そのためには陸前高田も過去の海岸線が変わって80数a地盤沈下して、あの土地に戻れないということは分かっているから、早く買い上げるということだけ言ってくれれば、被災地の人たちはきちんと絵を描く。
  木質バイオマスについて岩手は提供できる住田町とか、いろいろあるのでいっぱい使ったらいい。県でもっと言った方がいい。

  -復興の実施主体は市町村が基本となろうが、インフラの再整備や生活再建、事業再建の支援等に国の全面的な財政支出が不可欠だ。そのため現場で市町村がすぐにやりたいことをなかなかできない。国、県、市町村という行政の3層構造が迅速性の妨げにもなっている。どう克服していけばいいか。

  増田 市町村ではおっかなびっくり、逡巡(しゅんじゅん)しているところがある。今は予算化していなくても大いに市町村の判断でやっていい、あとでちゃんと予算化するからというように、決定権をできるだけ現場に下ろした方がいい。県の方に聞くと国のことを気にして駄目だと言われることがいっぱいあると、市町村から言われている。
  ここまでの大災害が起きたときは、むしろ逆に現場の方に任せて、あとから県が財政的にフォローし、それを国がフォローするという仕組みにしないと、きちんとした復興につながっていかない。今回は修羅場なので、市町村で一番必要なこと、この人を救うために必要だということをやったほうがいい。みんな一生懸命やっている。ただ仕組みは見直した方がいい。

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  【増田寛也氏(ますだ・ひろや)】1977年東大法学部卒。建設省入省。95年4月から岩手県知事を3期務め2007年4月に退任。07年8月から08年9月まで総務大臣、内閣府特命大臣(地方分権改革)。09年4月から野村総研顧問、東京大学公共政策大学院客員教授を務める。1951年生まれ。

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