盛岡タイムス Web News 2011年 5月 28 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉2 鈴木幸一 被災地でも除草昆虫は長い眠りから覚めていました

 被災地に比較したら本当に微々たる被害ですが、4階の研究室はキャンパス内でも痛手の大きな方でした。破損した分析器械、何種類もの培養中の貴重な細胞にダメージを受けた上、居室の方は、40年間整理もせずに積み上げてきた資料の山が崩壊し、その整理に1カ月、震災前の研究状態へ戻るのに2カ月を要しました。

  来る日も来る日も後片付けの連続でしたが、周りの心配とはよそに、通常経験しないような時を過ごしていました。

  沿岸に帰省していた学生さんと共同研究している企業の会長さんにどうしても連絡がつかず、ラジオからの被災情報を聴きながら探し人コーナーに頼ったところ、やっと電話連絡があった時は何よりも安堵しました。逆にこちらが心配され、海外、そして沖縄から札幌にいたるまで安否の確認と研究中断への同情を受けて、人のありがたさに胸がいっぱいということも味わいました。3月11日以来この国では、悲痛、同情、感謝があふれ出した特別な時間の流れになっています。

  研究者として何もできないジレンマを払拭(ふっしょく)するために、思いつくままの食料品、ドリンク剤、日用品をダンボールに詰めて、被災地の共同研究者に会いに避難場所に向かいました。

  街の中の風景は一変し、それはがれきの山を人工的に築いて、まるで映画のロケ地として使用している錯覚でした。しかし、25年前の留学先のアリゾナ州ツーソン市の西部劇ロケ現場とまったく異なるのは、そこには向き合わなければならない現実があります。

  被災地の方々の苦悩とは雲泥の差があれ、それぞれの生業(なりわい)から何とか手を差しのべたいというのが人の感情ですが、直接に役立つ分野は限られています。まして、昆虫やその関連素材を対象にしている研究者にとっては奇跡に近い難題です。

  2度目の訪問でも同じ衝撃と錯覚を抱いたまま、帰路につこうとしました。足元に目をやると、いつも桜の花が咲くころ、雑草のエゾノギシギシを食べる昆虫、コガタルリハムシ(小型で瑠璃色の甲虫)が長い眠りから覚めて、交尾中でした。「へぇー、ここにもいたの」と声をかけてみると、「あんたは研究で貢献すればいいから」と諭されているようでした。(岩手大学農学応用昆虫学研究室教授)


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