盛岡タイムス Web News 2011年 6月 10日 (金)

       

■  〈胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉28 露子君の病気はどんな様子だろうか

 ■阿部秀三

  53、巻紙 明治34年7月20日付
宛 紫波郡彦部村 野村長一様
発 盛岡市肴町二五 阿部秀三
 
拝啓其後は如何御消光被遊候哉、
露子君へ数十日前句之批評を乞ふたけれとも淡泊な挨拶かあったきり一片の音(訪)れもない形勢一変したらしい、敢て僕からうるさく付き纏ふ譯でもないか人がこんな風になるとあまり心地がよいもんではないと思ふ、○五山君か滞盛との事であったか何處に居るやら寝所にも解らす、尋ねても来て呉れず無聊をかこち居る、誰からも音(訪)れないか、豆敷くて居らるゝだろう、無事に音便なしの諺、○英文学史かいらいと云ふから解らぬ癖に買って見たくなって見たいが鳴(成)程どい(え)らいもんだて、然し誤植なんどか大分あるには閉口だ、次は高安訳の社會劇か現はるゝといふ廣告だ、それから世界史は博文舘から出る。
文禄堂の仇浪を見たか、近来?之名作たろうと思ふ風葉の院長が古めかしく春葉の白菫か比較的厭味に乏しく出來た鏡花の月下園か三井呉服店の廣告と来てるから可笑しい、然し作か何時もの鏡花だ、甘いもんだ。
鼠骨の断霞録は自序に曰く甘いと自分て云ふ程自惚ていぬかはり悪いと自分て云ふ程謙遜家でないと気骨か思はれて面白い、旧作を様々集めたもんたから、教師になって居る同君の文章は世既に完備ありで余も教て贅せす焉、
己か罪後篇を見た、多難なり、可もなく不可もなし、
服部君「迦具土」歌集到着、無難之美本、無然己れに似た様なもっと美しいもの價も中々お安くないもんだ、
小天地の鏡花作、木精は御らんになったろう、
題之如く夢を見せられた、
これで思ひ出した内丸坐(座の)九女(米)八の三十三間堂を見たか、お柳の動作申分なし見せたかった、
キ(箕)人兄帰省中之銷度日記を見たいもんだ、キ(箕)人君の住所を忘れて手紙をやる事か出來ぬ、露子君之病気かどんな様子だろうか、身体か弱い様だから養生が大切だ、
先づこれで御免を蒙り申候、また彼からあげよう、乱筆なれは御推讀、
  二十日           阿 部
   野村大兄
     文几
君之住所も忘れたったが だろうで当て書きした、
 
  【解説】夏期休暇中の岩動露子、猪狩五山、猪川箕人の動静をうかがっている書簡。
  「服部君「迦具土」歌集到着、無難之美本、」は、服部躬治の生涯唯一の歌集「迦具土」で、王朝趣味の浪漫的な歌を中心に、身近なものに材を求めた歌と、万葉調の影響を受けた歌とが混在しているという。
  服部躬治(もとはる)は、明治8年、福島県須賀川町生まれ。國學院に学び、落合直文の浅香社に入る。辞書の編纂や「万葉集」の研究に没頭したという。
  阿部秀三は、盛岡中学校を2年前に卒業した人であるが、各方面にわたる読書力の旺盛さには驚く。


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします