盛岡タイムス Web News 2011年 6月 22日 (水)

       

■ 学生賢治、地質学の日々 照井一明氏が講演、沼森の正体暴きにらまれる

     
  賢治の地質調査について講演する照井一明さん  
 
賢治の地質調査について講演する照井一明さん
 
  楢ノ木大学舎の第7回定期講座が19日、滝沢村大沢にある南部曲がり屋(藤倉喜久治さん宅)で開かれ、理学博士の照井一明さん(64)=紫波町中島=が「賢治と岩手山麓、滝沢村の地質」と題して講演した。賢治が滝沢村の沼森周辺で行った地質調査の目的と意味を科学的観点から解説。知的興奮を味わう20歳の科学者賢治像をあぶりだした。

  賢治は盛岡高等農林2年に在籍していた大正5年(1916年)、夏季実習として盛岡地域の地質図を作るように命じられた。当時、日本はまだ地質学の黎明(れいめい)期。ドイツ人学者ナウマンによる簡略的な地質図があったのみ。

  ナウマンの「大日本予察地質図東北部」は40万分の1の縮尺だった。照井さんによると、盛岡付近については北上川の以東と以西に分けて大ざっぱに分類されている。

  照井さんは「賢治らが作った盛岡付近地質図は5万分の1の縮尺で、ナウマンの地質図を超える詳細な土性図の作成を目指した」と話す。

  湯舟沢(滝沢村)から始まった賢治の調査は石ケ森を経て、2日目に沼森に達する。「沼森がすぐ前に立ってゐる。やっぱりこれも岩頸だ。どうせ石英安山岩、いやに響くなこいつめは。いやにカンカン云ひやがる。とにかくこれは石ヶ森とは血統が非常に近いものなのだ」「なぜさうこっちをにらむのだ、うしろから。/何も悪いことしないぢゃないか。まだにらむのか、勝手にしろ」と賢治は、その時の情景を書き記している。

  照井さんは「なぜ沼森がにらんでいると賢治は感じたのか。それは、賢治が沼森の正体を突き止めてしまったからです」と解説する。沼森は岩手山の岩屑岩からできた流れ山なのではなくて、石英安山岩の山だった。沼森は岩手山とは無縁だと分かった。「つまり賢治は沼森の正体をばらした」

  賢治らは、「第三紀水成岩地域」とされていた北上川以西について、まず第三紀層から第四紀層を分離し、さらに古層と新層に区分した。第三紀水成岩の地帯についても火山砕屑岩と新火山岩に細分して図示しているという。

  照井さんは、賢治らが行った地質調査を評価する。それまで知られていたものを超えた詳細な岩相分布図を作製し、半熔頁岩(はんようけつがん)の新称を提案し、滝沢石を残し、北上山地西縁に大断層があることを指摘したという。

  その地質調査から12年後の昭和3年(1928年)、病に倒れた賢治は「冷たい汗と熱」の中で「あゝあのころは/わたくしは汗も痛みも忘れ/二十歳の軽い心臓にかへり/セピアいろした木立を縫って/きれいな初冬の空気のなかを/石切たちの一むれと大沢坂峠をのぼってゐた」(疾中)と書き記す。

  重い病床でなぜ、12年も前の大沢坂峠(おさざかとうげ=滝沢村)に思いをはせたのか。そもそもなぜ初冬にもう一度大沢坂峠に向かわなければならなかったのか。

  それは、夏休みの調査のあと、報告文を最終的にまとめるにあたって「さらに補充したい問題が生じた」からだと照井さんは推理する。それは大沢坂峠の西側に凝灰岩や流紋岩の存在を確認するのが目的だった。つまり火山岩の基盤となる地層があることを賢治は確認したかった。それは地質学的にも大きな意味を持つものだった。

  照井さんは大正5年(1916年)10月に作られた3首の短歌に着目する。「霜ばしら砕けて落つる岩崖は陰気至極のLiparite tuff(リパライト・タフ‖流紋岩・凝灰岩)」「凍りたる凝灰岩の岩壁を踊りめぐれる影法師はも」。岩壁に大きく踊り喜ぶ若き研究者の影が映った。賢治は大沢坂峠周辺で、そうであろうと信じていた凝灰岩を確かに見つけたのである。

  大沢坂峠で得た地質学的発見は、賢治にとって、科学者としての輝かしい成果でもあったと照井さんは考える。「この凝灰岩を発見した調査体験が、後にも忘れられずリパライトにこだわり続けることになった」という。

  賢治らの作った地質図は後の研究者たちのさらに詳細な調査が加わって完成していく。賢治によって存在が指摘された断層は、照井さんらの調査によって東西で600bもの段差がある志和断層であることも分かった。

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  当日は、座敷に30人を超える出席者となった。当主の藤倉さんが曲がり屋の住み心地などを紹介。アマランサス入りのおにぎりとトウキビで作ったへっちょこ団子の汁粉を全員が味わった。


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