盛岡タイムス Web News 2011年 9月 8日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉370 岩橋淳 西風号の遭難

     
   
     
  オールズバーグの作品は、以前にも第238回にて『急行北極号』をご紹介しました。ベストセラー作家・村上春樹氏は、好んで彼の作品を翻訳していますが、最初に手がけたのが、本作。光と影を意識した独特の色使い、現実と非現実の境界をさまよう物語は、訳者のみならず多くのファンを魅了しています。

  海岸づたいに旅をしていた「私」は、海を見下ろす高い崖の縁に、小さなヨットの残骸を見つけます。いぶかしむ「私」は、その傍らでパイプをくゆらす老人から、このヨットにまつわる話を聞かされることに…。

  かつてこの漁村にいた、ひとりの少年の、不思議な体験談。ヨットを操ることにかけては、近在、自分の右に出る者はないという自負と、少年期特有の高慢。それが、少年を進んで時化の外海に乗り出させますが、荒れ狂う波と風は、容赦なくかれを翻弄します。

  見知らぬ海岸に打ち上げられた少年がさまよう、見知らぬ街。そこでかれは、不思議な光景を目にすることになります。

  異空間での出来事を包み込むかのような、光と色と時間の質感は、オールズバーグ作品の特異な持ち味。訳者をして「ここに並んだ十四枚の暗示的な絵から、読者は一人一人がそれぞれの物語を作り出すことが可能」と言わしめる、不思議な奥行きをたたえています。

  【今週の絵本】『西風号の遭難』C・V・オールズバーグ/絵・文、村上春樹/訳、河出書房新社/刊、1580円(1983年)。


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