盛岡タイムス Web News 2011年 9月 15日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉39 古水一雄 第三十二冊夏草録

 「通巻三十二冊 夏草録」は明治40年9月6日から10月20日までの日記である。残暑から八幡宮の祭を経て初冬へと足早に季節が移り変わっていっている。この間春又春は願教寺に嶋地黙雷を訪ね「莊子講義」に参加したり、谷河尚忠の主宰する「大学例会」に参加したりしている。ただし、素読はどうにかこなすものの、解釈はすぐに忘れてしまい苦戦の模様である。講義メモもしっかり書き取らなくてはと反省の弁しきりである。
     
  「通巻三十二冊 夏草録」  
 
「通巻三十二冊 夏草録」
 
 
  さて、この時代の娯楽の一つとして親しまれたもののなかに南部相撲がある。
 
   (9月28日)
    終日「放翁詩抄」ニ朱ヲ点ジテ三冊
    ニ打チ終ル、雲軒、山陰若亭、久保
    寅主人、半次郎君、相角行、夜相角
    ノ談賑ハフ
  
   (9月29日)
    朝、書き出し五・六軒分書き終つて
    飯ス、少年輩ヲ拉シテ相角行、コレ
    ガ領タリ、地取(意:相撲の稽古)
    国見山ト駒ヶ嶺トノ稽固面白シ、鬼
    龍山ノ花相撲(意:ここではしょっ
    きりや相撲甚句のことか)満場ノ拍
    手波動ス、
    夜、店頭座ヲ円ウシテ相撲談、客不
    至、
 
  南部相撲については、長崎の平戸松浦藩九代藩主・松浦静山公が書き表した「甲子夜話」でその特徴を挙げている。(木梨雅子著「鶴の守る地に祈りは満ちて-盛岡藩お抱え相撲物語-」旧盛岡藩士桑田発刊より)
     
  「南部の角芝」『図録・描かれた北東北』北東北三県共同展実行委員会刊  
 
「南部の角芝」『図録・描かれた北東北』北東北三県共同展実行委員会刊
 
 
  1 土俵は四角の形状をとり、それぞれ
   の四隅には柱を建てるという。円形に
   はしない。
  2 行司装束も、通常の裃姿とは異なり、
   能役者・狂言役者と同じスタイルのも
   のという。素材には麻は使用せず、繻
   子(しゅす)、錦などを用いた華麗な
   ものとのことだ。
  3 行司(南部相撲では行事と表記する)
   は、通常のように土俵上に上がって采
   配は行わないそうだ。土俵下に構えら
   れた見物所と呼ばれる場所の向う正面
   に立ち、その場から動かずに団扇を揚
   げて判定するという。
  4 行司の首座にあるものは、300石
   もの家禄を得ている。相撲場にでる行
   司は、皆その弟子とのことだ。
  5 相撲取りが立ち合うときに踏む四股
   は土俵外にて踏まれる。その後、土俵
   内に入り、相撲をとるそうだ。
  6 大関や関脇は、土俵際まで刀を携え
   ていき、それから相撲をするという。
 
  伝聞形式で書かれたのは、静山公が文化文政の頃に催された「相撲の集い」で盛岡南部藩で相撲をみてきたという男の語るのを筆録したことによる。

  そもそも南部相撲の発祥は、寛永21年(1644年)までさかのぼり、この時期にはお抱え相撲の記録が残されているというのだ。江戸相撲が宝暦年間(1751〜1763)からの活動といわれているから、約100年ほども前に創出されていたのだという。

  当初は藩主秘蔵の技芸集団として珍重され、門外不出であった。それが次第に家老によっても召し抱えられ、その者たちによって限られた相撲場でも取り組まれていたのだが、延宝4年9月15日に新八幡宮建設のために領内初の勧進相撲が行われ、一般領民も目にすることができるようになったのである。

  それ以来度々勧進相撲が催された。勧進相撲にあたっては土俵を四角に築いたので、それに因んで角芝・相角など称するようになったようである。勧進相撲は、さらには東北各藩の相撲集団などとも交流を行い、南部相角として広く定着するようになったのである。

  その後、飢饉や倹約令などによって活動休止となるなど幾つかの曲折を経ながら幕末まで続いた。

  幕末から明治にかけては素人相撲取り集団が「草取相撲」として興行し南部相撲を引き継いだかたちで受け継がれていたが大正2年(1913年)にその幕を閉じたのであった。

  春又春たちが遊覧した相撲も、開催期日からすると角芝の草取相撲ということになろう。娯楽の少なかったこの当時、相撲は大いににぎわったのであった。そして帰宅してもなお相撲談義で華やいだのだ。

  日記には“相角”の言葉が使われているが、南部角芝の面影を感じ取ることができる。


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