盛岡タイムス Web News 2011年 12月 7日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉258 伊藤幸子 「源氏絵巻」

 おもかげは身をも離れず山ざくら心のかぎりとめて来(こ)しかど
                                    源氏物語
 
  このほど朝日新聞出版より「週刊絵巻で楽しむ−源氏物語」が創刊された。54帖、全60冊創刊号は「一帖桐壺」の巻である。なんという豪華さ、朝日新聞の「いつかは読みたい本」ランキングでもトップのこの古典が11月22日から発売されている。目をみはる「源氏絵」の美しさ、今回出版にこぎつけるまでの学者、研究者、海外調査チームの方々等の談話も誌面で報じられている。

  何といっても目にとびこんでくる物語の生活実感に圧倒される。今までも断片的に絵巻や展覧会の図録等で見ていたが、こうして一冊のページを繰りながら長大な大内裏(だいだいり)の全容を目にすると息づまる感動を覚える。

  まずとびらを開けると「桐壺の基本知識」「人物関係図」がカラフルに、現代版のイラスト入りでわかりやすく解説、実に楽しい。「いつの時代であったか、ひときわ帝のご寵愛を受けておられた更衣(こうい)がおりました」あまたの妃たちの羨望嫉妬に苦しみながら皇子を出産。

  絵巻では、帝は御簾(みす)の内側で更衣に抱かれた光君とご対面。しかし更衣はその後、里さがり のまま息絶えてしまった。

  本集には、尾崎左永子さんの解説で、帝と桐壺の更衣の贈答歌が載っている。「限りとてわかるる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり」〈限りある別れと知っていても、あの世に行きたくはない、本心は生きたいのです・更衣〉「尋ねゆくまぼろしもがなつてにても魂(たま)のありかをそこと知るべく」〈楊貴妃の場合のように人づてでも、更衣の魂のありかを知ることができるように・桐壺帝〉

  やがて母の桐壺更衣にそっくりな藤壺女御が入内(じゅだい)した。そして12歳の光源氏は元服し、16歳の葵の上と結婚。一方亡き母上に似ているとはいえ「大人になり給ひて後は、ありしやうに御簾の内にも入れたまはず」と、もう以前のように藤壺の宮とは会えなくなったのだが、この巻で早くも大きな暗雲がたちこめる…。

  私は今、昭和39年の購入年月日のある「岩波日本古典文学大系」をつき合わせて読んでいる。一途に原文ととりくんでいたあのころにこのような写真、図解、豊富な資料があったらどんなに助かったかと動悸をおさえきれない。掲出歌は10代からの暗誦歌の「若紫の巻」、54帖シリーズではもう少し先のこと。毎週配本でも1年がかり、大層丁寧な鑑修で、これならむかし乙女にもついていけそうだ。日々新しく、毎回待ち遠しくてならない。
(八幡平市、歌人)


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