盛岡タイムス Web News 2011年 12月 22日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉46 古水一雄 「通巻三十七冊」無題

 通巻「第三十七冊」は無題で最初の9nには俳句が書き連ねてあり、6月16日の日付には「杜陵舘ニ会するもの五人、五月雨に雑談をたゝかはして句を作らず」とある。さらに短歌を含む句作が16nあった次に、「頂盆底子句評」が2n書かれている。その後に日記風の文章があり次の文章が書き付けられている。
     
  通巻「第三十七冊」無題  
 
通巻「第三十七冊」無題
 
 
   ワザワザ 岩崎ノ面目ヲ見ニ小岩井ク
   ンダリ迄足脚を労シアトハ厨川先生ナ
   サケナイジヤナイカ、雫石街道楊柳長
   堤は漸ク暮レテ峰ノ薬師詣デノアカラ
   少女ノ帰リ来ルニ逢フ、一幅春風馬堤
   曲、連想又連想、曲中ヲ行クヨニ思フ
   タ、ソレハソレトシテ夕顔瀬ヲ渡テヨ
   リノ月秋咳又咳、十歩ニシテ杖ニ倚ル、
   遅々トシテ進マズ、イヤハヤ小岩井ニ
   誘フタノハ春又春一生ノ罪作リヲシタ
   モノダ、
 
  小岩井農場の帰り道、夕暮れの堤防道に柳がなびく様子は、蕪村の「春風馬堤曲」をほうふつさせるようであると連想に連想をふくらませている。しかし、伴の月秋とみれば、ひっきりなしに咳をして、十歩もあるけば杖に寄りかかるといった様子で遅々として歩みがはかどらない。
 
  実は当の月秋は、この年の初め頃から肺尖カタルが高じて肺結核となっていて、お盆までは保つまいといわれていたのである。終日床に伏しているのをふびんに感じて、外に連れ出したのだが、かえって月秋の体に負担をかけてしまったことを悔やんだのであった。
 
  暫く句作が続き、5月26日の日付があって秋田に向けて露艸と旅立っている。繋温泉に一泊。残雪の残る仙岩峠を越え、国見峠を越えての徒歩旅行である。
 
   朝繋発、仙岩峠ノ険ヲ越エテ秋田ニ入
   リ茲生保内(おぼない)ニ着仕候、峠
   雪未ダ全ク消エズ、處々路を塞ギテ行
   客ニ満腹ノ涼ヲ与フ、雪害ノ倒木崩石
   転々累々、七里ノ山道喘ぎ喘ぎテ宿ニ
   着キ候
 
  生保内から家に宛てて消息している。28日は生保内から角館までは徒歩で、角館から大曲までは馬車を使い、大曲から刈和野まで列車であった。刈和野に一泊し翌日はまた徒歩で本荘に向かう。本荘の宿で痩柿に手紙を認める。
   
   (略)今日ハ刈和野トイフ小亭ヨリ茲
   本荘ノ長澤迄十一里ノ暑サヲヤツテ来
   たトハ我レナガラ命衰ヒタ、アゝ命衰
   ヒタ、カラダノ健不健問題デ旅行スル
   ナドノ醉興(狂)ハ我レ醉ヒタリトモソ
   レ程堕落セヌ筈ダ、勿論カラダハ衰ヒ  タ衰ヒタトト思フト自暴自棄ガ起ル、
   ナゼコンナニ弱イノダト、サレド弱イ
   トカ丈夫トカヲ思フテ居ル内ハ気楽デ
   アツッタ、風ノ寒イ処ヲ夏シヤチ(シ
   ャツ)一枚ノ為メ風邪ヒイテ、ユウベ
   二三度四五度汗デ目ガ覚メタ、サムル
   度ニアゝ風邪ヒイタト思フ、カラダガ
   弱イト思フテヒト泣イタ、起キテ見ル
   ト頭脳ガボーガボーと熱ス、脈ヲ数フル
   ト九十幾ツウツタ、風邪ナンカトイフ
   自暴ガ起ル、今朝六時半ヨリ午后四時
   半迄十一里ヲ喘ぎ喘ぎヤツテ来タノデ
   アル、暑イノデ流汗淋漓(意:あふれ
   したたる)風邪ハドウカシタト見エ、
   本荘ニ着イテ湯ニ入リ麦酒一杯ス、
 
  刈和野から本荘の長澤までの11里も暑さの中を歩いたのでかなり体力が消耗しているのを感じている。おまけに昨夜は夏用のシャツ一枚であったために、風邪をひいてしまったらしく夜中に発汗のためにしきりに目が覚めてしまった。

  今朝は発熱して脈拍も90を超えている。そんな中、午前6時半から午後4時半までの11里をやってきたが、したたるように流れ出る汗で風邪は何処かに吹っ飛んでしまったようだ。宿にて風呂に入りビールを一杯飲み干した。どうやら無事体調も回復したらしい。

  翌朝、馬車に乗り秋田に向かう。夕方7時に宿について、街中を散歩して少し心にゆとりができたのか一挙に26句を書き付けている。この日は海岸沿いの土崎を目指す。土崎からさらに船川を目指して宿をとる。翌朝島巡りの予定であったが海がしけため変更、八郎潟を横断しようとしたがこれも強風で舟がでないとのこと、追分まで戻って大館駅に向かう。大館からは客馬車に乗り換えて羽田まで。羽田から2里歩いて大瀧温泉へ。菖蒲湯に実家・盛岡の端午の節句行事を思い出す。大瀧からこの日は朝食後花輪に徒歩で向かう。宿に一度立ち寄って、昼食は親戚で餅料理を振る舞われた。鹿角は高祖・利吉の出生の地で親戚も多い。親戚の家をさらに2・3軒訪れ翌日は十和田湖巡りを行い、12日間の秋田への旅を終えて帰盛している。

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