盛岡タイムス Web News 2011年 12月 30日 (金)

       

■ 〈胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉56 八重嶋勲夫 面白い小説でもあらバ

 ■猪川浩

   秋皎二六、四山一七、両渓一六、椿堂一四、五山一三、松郎一二
  抱琴キ人など大失敗、快愉に終り候、一題十句夕立タイムなけれバ十句集にして廻覧する積りなり、
同人の消息、五山兄日増ハイカラに成れり、地人論、精神病看護学、乙女心伊國十二健児、運動会の唱歌など古本屋より求め来り、頗る得意なり、田舎に居ると脳髄が古びて来るからいかんといふてあろふ、然し目下僕の如きは読書ハせずに学科は勉強せず随落せり、今後昼ハ梅内に行いて清風の窓ほしいまヽに排して、読書勉強創作に身をい(ゆ)たねんとす、先頃行きて本を置いて来たれバ今からいつにても行くなり、夜は猪川先生なり、五山兄オーガンを主張する事いやまし、予も羨望に堪へぬ次第なり、されど少しの暇もなくて高等科丈け困るといって愚痴を零ほす、無理ならぬ事なり、而して四方へ手足を伸ばしたが、岡山の醫学校へ行く様なり、無試験な学校でもなし、早く這入るか堪(肝)じんかと思って居るなり、然し当人呑気なものて(実は呑気でもなんでもない)、今年落第したならバイオリンを購求すべしなど言って居るなり、さて杏子君なり、君も知っての通り境遇如何ともすべからず、たづきの術とて太田の小学校へ代用教員にて出勤する事となり、今毎日家より通勤し居るなり、可憐相なり、同情を寄せてやり玉へ、されど予は思ふ、杏子君は恐らくハ戀慕流のお葉の様な性格を有して居ないかといふ事なり、假りにも同情を寄せらるヽが、却っていやなくいふ感を持ってハ居らぬだろふか、幾分この様に常に有して居るハ事実に近き様なり、あまり好ましからぬ性格とハいへ、節操なき愚者の比にもあらずされど、他人にしてこの性を受くるものとせんか、佛陀が大慈大悲の心も無になる譯なり、眞に淘汰し難き癖性なり、勉めて避けざるべからず、冷仙、寒葉、秋皎(?風説勢ひこヽにかく)の如きに到てハ、半玉やそばや(よの字橋側)の女にでれめくなり、話すさへ胸くそが悪い、勿論内容を覗はヾ実に甚だしい、下村の如きは自ら通を衒ひ市中横行して半玉へ揶揄ふて揚げたり、半玉の方でハ可憐相な人間なりと思って切めて知らぬ振りでもしてやれと見ぬふりすれバ粋かってよし見ぬふりするなとか云って冷評す積りたと見えて昼間中と笑って居るとかこヽらは噴飯も極度なり、此即有様でハ一体人間がたのもしからず、記念日の時で解った本賣り拂って来る積りな(だ)が下村の入智慧で「詰らないぢゃないか本を折角賣ってから佶倔な思ひをするなんて」と云ふ調子ですぐそば屋へかけ込んだ相で、後は野となれとんでもない古本屋からこれがばれて聞えたり、悪事千里後生が悪い子とうけ合ひなり、か(ま)して僕へは急用が出て弔ひに行くとか云って来た相な、とんでもない間違いだ。まアこれにて人の悪口を止ま(め)にする、杜陵吟社が彼等の為めに乱さるヽの憂ひなければ可なり、キン舟兄よ憂ふ勿れ、予独りか杜陵吟社也、俳熱にうかれて囈言を奴原も杜陵吟社に非す、ハイカラかって無意識な人間が長詩云々とぬかす奴も杜陵吟社に非す、長き生命を保ち得るキ人一人也、日蓮が日本一の冨者也といばってる同然也、
何故に予は信仰を求めんとし、かく汲々たるか、兄よ物語せん、近頃新聞雑誌より成り上りのチヤキチヤキ文士出て(で)ヾ(て)しきりに文学通を振り廻志、横腹いたき次第也、それ故にとうとう文学とかいふ方に興を持たなくなって来た彼等は文士学者たらんを乞ひて人たらんを冀はざるなり、予は密かに思ふ、幾百の文士学者彼等にして豪も信仰なき人なりとせんか、彼れ等が唱ふる学説、創作する作物一として世を風靡して益するに足るヽのあるか、殆んと見るに價するものに非す、即ち幾百のヘッポコ文士学者を出すふし唯一人の完全なる人間日蓮の如き偉大な人間一人要するなり、社會がどれ丈益する所あるか知れたものに非す、魯の国は孔子の為めに生命を繋き得たといふ事なり、霊性の安慰、理性の平和、人格の養成は文学のみに依りて得らるヽに非ず、吁々信仰一つあるべきのみ、キン舟兄よ予が煩悶し轉々し苦悩するも皆これ過ぎざるのみ、
夕行きて三柊兄ニ大に得所ありき、予は信仰を得んするも得るも皆三柊兄のあつかりて力ある所予が深く感謝せさるを得ざる所なり、

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繪はがき面白きものあらバ送り給へ、冨士山、美人など秀逸なり、たびたび送りてくれ玉へ、昨日抱琴君からモントクリストを借りて来たが、仲々読め相もないから極々たやすい奴で面白いもの小説でもよしお伽話しでもよしあらバ送りてくれ給へ、
君が味噌をほしいといふでハないか、鰹節味噌でもしてやるべいか、但し砂糖入れず、これは椀に味噌を取分けて熱湯を灌くなり、かくすれば上等の汁が出来る也、味噌を送るは易し、送資許り高いにハ驚いた、要するなら要すといってよこし玉へ、宮川君と相談してどうかすべし、雨ふりていやなら日傘もなけれバ学校へも行き度くなし、床をのべて横になって書く、仲々横着者也、早くまゐらすべき文大分おくれたり、失敬頓首
     六月二日
   菫舟兄           箕人生
     薫風や折戸あくれバ鴨の水
 
  【解説】長一、21歳、上級学校を目指して勉学中の者のため、岩手県立盛岡中学校では補習科を設けるとのことで、その入学の手続きを猪川箕人を通して行おうとしているらしい。徴兵検査猶豫のために特別配慮されたもので、これに入学し、校長発行の在学証明書を添え徴兵検査猶豫願書を提出するもの。また、「杜陵吟社創立記念会、会するもの十八名、抱琴、杏子、五山、三柊、月州、両渓、肆山、秋琴、秋皎、松郎、一骨、滋夫、青霖、薊子、椿堂、箕人、外門漢、宮川ケイ坊、村上四郎、五山兄不意に訪れたるは意外」と杜陵吟社創立四年を迎え、東京から原抱琴も駆けつけ、「運座、十題」 田植、桐之花、薫風、火串、短夜、更衣、涼しさ、羅、掛香、祝誕生記念日で、俳句を作り、輪講を行って盛んな記念会となったという。

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