盛岡タイムス Web News 2012年 2月 9日 (木)

       

■ 〈古都の鐘〉50 チャペック・鈴木理恵 ディルンドルのドレス

     
   
     
  今年のわたしの初コンサートは、ブラームスだった。曲目は作品39のワルツと、歌のカルテットが入った愛の歌のワルツ集作品52。その他に、弦楽四重奏によるランナーのレントラーとワルツ、ディアゴネッティというベートーベンと同時代の作曲家によるコントラバスソロのワルツが入った。その名も「ワルツがいっぱい!」と題された、素敵なプログラムの演奏会であった。
 
  ウィーンフィルのニューイヤーコンサートでもおなじみ、新年はなんといってもワルツで始まる。年が明けて1月6日の顕現節が終わると、ウィーンは春を告げる復活祭前の四旬節までバル、すなわち舞踏会のシーズンたけなわとなる。
 
  タンターンタンと、2拍目がくうっと伸びたウィンナーワルツ、なぜかというと2拍目のステップでくるっと回転しなければならないからなそうである。ウィーンのこのワルツも、もとはオーバーエスタライヒ地方、オーストリアでいうと北地方のレントラーという、言わば鄙(ひな)びた3拍子の踊りがルーツらしい。
  レントラーのレントは田舎という意味のラントが語源。だから、一緒にピアノを弾いていたわたしのパートナーも、レントラーは洗練されすぎないで、正装じゃなくて腕まくりして弾かなくちゃいけないと言っていた。
  腕まくりってと不思議そうな顔をするわたしに、要するにざっくばらんにシンプルに弾くことさと付け加える。シューベルトにもレントラーがたくさんあるが、それも仲間内で踊るために書いたのであった。
 
  今回のコンサートでは、主催者がそうした要素も取り入れてプログラミングしたのだろう、出演者も田舎のコスチューム、民族衣装でとあいなった。女性はディルンドルというエプロンドレスである。胸を強調するような開きの広いブラウスにコルセットのドレス、そしてエプロンの組み合わせである。
 
  このディルンドル、オーストリアに長年いながらもわたしの手が出なかったもののひとつ。黒髪に黒い目には、どうも似合わないような気がして、また、どういう形や色の組み合わせにして良いか基準がどうも分からなくて、気になりながらも素通りしてきた。
  しかし今、オーストリアの一般家庭、生活にとっぷりと浸かって、この民族衣装を目にする機会が増え、まずは試してみようと、ちょうど手に入れたところだったのである。
 
  ブラームスも民謡を収集して自作の曲にいろいろ取り入れていたが、今回はこの作曲家を弾いていて、シューベルトの面影を感じることが多々あった。ウィーンらしさ、オーストリアらしさといって、一口ではとても言い切れないが、ハイドンからモーツァルト、ベートーベン、シューベルト、ブラームス、マーラー、ベルク…と、ウィーンに生き、酸いも甘いもかみしめたこの音楽家たちにどこか相通ずる、笑いの影に潜む哀しみのようなものを、リズムに旋律にその余韻にどこか感じるのである。この街にはそれが染み込んでいる。
 
  ウィーンに暮らしはや13年。光陰矢の如し、その思いは日増しに募る。
(盛岡市出身、ピアニスト)


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