盛岡タイムス Web News 2012年 2月 19日 (日)

       

■ 〈詩人のポスト〉吉野重雄 納豆汁

吉野重雄(盛岡市)
  納豆汁
 
節分の日
山伏峠を越えて
沢内から滝沢へ
宅急便で
サワモダシの缶詰が届く
 
少年の日
すり鉢にすりこ木を預けられ
藁(わら)づとにびっしりの納豆を
丁寧にすり潰すように
母に言いつけられて
悪戦苦闘した記憶
 
太平洋戦争で
東京から沢内に疎開して来た我が家に
のんのんと降る雪の中
大きな鉄鍋を下げてやって来て
料理の苦手な母に
納豆汁の作り方を伝授したのは
川向いのバッパだった
 
あの日から
節分に納豆汁を作るのが
我が家の慣わしになった
 
戦争が終わって暫くして
沢内から滝沢に引っ越すとき
母が後生大事に持ってきた
すり鉢とすりこ木は
節分の日だけ物置から運び出される
母が逝き父も逝きして
納豆をすり潰すのは相も変わらず私
その後は妻の出番となる
 
鉄鍋に湯をぐらぐら沸かし
サワモダシをたっぷり入れて
豆腐と短冊に刻んだ油揚げを混ぜ
味噌とすり潰した納豆を溶いたら
ひと煮立ちさせて
刻んだネギをさっと放せば
出来上がり
 
作りたての納豆汁は
仏壇に供えてから食卓に並べられる
懐かしい香りが部屋いっぱいに漂い
今夜は納豆汁かと
父と母とが
ひよっこり顔を出しそうな
そんな雪の日の夕餉がはじまる
 
ああ
明日は立春だ

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