盛岡タイムス Web News 2012年 2月 29日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉270 伊藤幸子 うるう年

 一年の日かずが多いこの年は暦にきみの誕生日あり
                                   有川知津子

  4年に1度の閏(うるう)年、きょうは「一年の日かずが多い」2月29日。閏年は西暦年数でも4で割って余りの出ない年であり、オリンピックの開催年、またアメリカ大統領選挙の年。日本では「神武天皇即位紀元」つまり「皇紀」年数が4で割りきれる年が閏年となっていて、ことしは皇紀2672年である。

  誰しも新しいカレンダーを貼るときは、まず自分の生まれ日を見るのではなかろうか。私も今月が誕生月。でも2月生まれって、他の月よりも2、3日少なかったり、不足感覚にとらわれて、この歌のように「日かずが多い」と思ったことはなかった。この作者は、新年の暦に、いつもはない2月29日がある!と喜び「きみの誕生日」をことほいだ。

  この歌を所属の短歌誌で読んだのは8年前。当時30代の長崎の女流歌人で、いつも瑞々しい発想に頬がゆるみ、若い感性をうらやんできた。

  そして今年1月、一連の有川作品18首が発表された。連作は作者の資質はもちろん、構成、バランス、テーマ性等々高い水準が求められる。何よりおもしろくなければならない。彼女は、親しい友人の結婚式に招かれたらしい。「今、仮に彼女のことをIと呼ぼう白きスニーカーのやうな花嫁」から幕があく。「くいくいと銀の小鉤(こはぜ)を掛けゆけり緊張気味のわれの足くび」「18の齢のちがひそのままに手をかさねあふ先生とI」「花よめの母のかたこと日本語にわれのにほんごかたこととなる」こう読んでくるだけで、華やかな結婚式場が見え、異国の花嫁、Iさんと18もの年齢差をこえて結ばれたカップルの姿が想像できる。

  「新郎が目下の趣味をたづねられほがらほがらと言へり『Iです』」「Iさんとは杜甫の詩をともに読んだりも…言ひて気づきぬシは忌みことば」スピーチのマナー、死や別れ、去るは禁句。さりげなく世間智もふまえて「海峡に空砲ひびくゆふぐれをわれは衣裳の帯解いてゆく」とうたい納める。「Iイーチェンたとふればさう水踏みて逢ひたくなれば逢ひにゆくひと」一篇の詩を読むやさしさに似て、イーチェンの語感の奥深さ。「雨のふる音さへちがう外つ国をさびしと言ひしIなりにしを」そのさびしさをかけがえのない友情で埋め「目下の趣味」と愛でられる新郎とめぐりあった。よんだりよばれたり、微妙にゆれ動く女心をかいまみて、これからは4年にひとつずつ加齢できたらなあとつぶやいた。
(八幡平市、歌人)


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