盛岡タイムス Web News 2013年  7月  23日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 「波止場の残像」金野清人


   
  荒れ果てた波止場は
  霧に包まれ
  何も見えない

 アイナメ釣りに通った磯には
  鉛色の波が打ち寄せ
  千切れた海藻と
  さまざまな瓦礫が漂っている

 あの日
  広田湾の浜辺から
  ゴム長を履いた漁師たちが現れ
  脇目も振らず
  漁船の歩み板を軋ませ
  先を競って乗り込み
  捩じり鉢巻き姿で
  沖へ出て行った

 ところが
  航跡も消えぬ間に
  どす黒い波が屏風のように立ち上がり
  視界を閉ざしてしまったのだ

 鉢巻き姿の漁師たちはどうなったのだろう
  今日も
  何も見えない波止場に佇み
  沖に向かって叫んでみる

 呼び声は
  黒い波濤に呑み込まれ
  逆巻く波頭に掻き消され
  海鳴りだけが
  沖の彼方から聞こえてくる

 あの日から
  私は声にならない声を張り上げ
  帰ってこない漁師たちを
  呼び続けている



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