盛岡タイムス Web News 2013年  9月  21日 (土)

       

■  〈賢治の置土産〉333 岡澤敏男 暁烏敏の花巻行


 ■暁烏敏の花巻行

  暁烏敏の年表(『暁烏敏全集』別巻)に目を通してみると、明治36年(28歳)4月5〜14日の「東北飢饉慰問行」を創始として78歳で示寂する前年の昭和28年まで、北は北海道・樺太、南は九州・沖縄に至る国内各地区へ布教行脚をしていることを知る。そのなかで岩手への行脚は明治36年、同39年、同42年、大正2年、同6年、同9年、同11年、同13年、同15年、昭和2年、同3年、同5年、同7年、同9年、同11年、同13年、同15年、同18年、同23年、同25年と通算20回にも及んでおり、若干コースが前後する場合もあるが盛岡(赤沢亦吉・高橋伊兵衛方)→浄法寺(小田島五郎方)→花巻(宮沢政次郎方)と行程がほぼ定例化している。ただし明治36年、大正11年、同12年、昭和3年、昭和13年、同15年、同25年にはどういうわけか花巻に立ち寄っていない。また花巻に来訪した大正2年は安浄寺、昭和11年は花巻温泉、同18年は岩田豊藏方に宿泊をとっているのは、何かの都合で政次郎が花巻を不在にしていたのかも知れない。いずれにしろ、このように暁烏敏と花巻衆が密に交流を続けた背景には、浄土真宗へ深く帰依する政次郎が暁烏敏を尊師として景迎した縁によるものと思われます。

  しかし大正4年に暁烏敏の名声と信望が失墜するような事件が発生しました。それは京都の宗教新聞『中外日報』に載った「暁烏氏の噂」という醜聞暴露記事でした。1月29日、2月5日、9日と、立て続けに掲載され社会的にダメージを受け「私は多くの友人を失った、先輩を失った、後輩を失った、そして天下に合わす顔がなくなった…総てに捨てられ、総べてに打たれ、泣きながらも一人で歩まう、と決心した。そして自分は世の誰からも尊敬と慈悲を受ける価値のないものである、と思ひ切ったので、一切の業績が除かれた様な気がした」(「自伝を書けない私」『暁烏敏全集十九巻』)と痛哭(こく)した暁烏敏は浩々洞の代表を辞して加賀国(石川県)出城村上安田に帰郷を決意した。

  この事件は『中外日報』の読者だった政次郎、赤沢亦吉、小田島五郎らに深刻な衝撃を与えたものと思われる。しかし岩手の信奉者たちは暁烏敏を決して見捨てることはなかった。事件後の大正6年5月に暁烏敏を岩手に招き布教させているのです。4日から28日まで盛岡、福岡、浄法寺、花巻、黒沢尻、盛岡、東京と行脚したことが『汎濫』注Vの11(6月20日「東京にて」)に報じられている。「今又諸兄姉と共に師によりて与へたる波動を味ひて居ります」とそのお礼状を寒石(勘太郎)、悦浄(五郎)、金蓮(清次郎)の連名で5月31日に暁烏敏宛発信している。その末尾に寒石は「浄法寺で小田島まきさんが生きた歎異抄を拝聴したと喜んで居られます」と追伸しているのが注意されます。ますさんが暁烏敏を「生きた歎異抄」と言ったのは、親鸞の「六角堂の夢告」の説話を指すものと推察される。それは親鸞が28歳のとき京都の六角堂に百日間参籠(さんろう)をした古事で、九十五日目の暁に堂の本尊である救世観音菩薩が僧侶の姿で現れ、白い衣に袈裟(けさ)をかけ、大きな白蓮に端座し善信(親鸞のこと)に告げた次の偈文(げもん)のことです。「修行者であるあなたが宿業の報いよって、たとい戒律に背いて女性と交わることになっても、私が女性となって犯されてあげよう(以下省略)」。ますさんはこの古事を念頭に醜聞事件にめげず活躍する暁烏敏を受容したものと思われる。

  注『汎濫』は加賀上安田で大正5年11月発刊された暁烏敏、藤原鉄乗、高光大船の同人タブロイド判新聞(8n)のこと。

  ■大正6年6月20日号『汎濫』「東京より」(抜粋)
 
  「私は九日に盛岡をたちて福岡町に至り二泊しました、講演会が開かれました。山吹の花が咲いてをるのに珍しく雪がふったのでとうとう一日余計逗留することになり十一日に荷馬車に乗り五里の山路を浄法寺村にまゐりました。」(小田島家逗留)「高橋勘太郎さんは不相熱心に法を求めて進展してゐられます。校長孤舟さん等福徳会婦人会など開かれ「維摩経」仏道品について語りました。十三日には小田島五郎さんが催さるゝ第九回目の少年少女の花祭がありました。楽しい会でした。」「十四日には花巻にまゐりました。宮沢政次郎、同直治、斉藤宗次郎氏等の旧知の人々に四年ぶりで逢ふたのはうれしかった。十六日には志戸平の温泉に終日遊びました。十六日の夜は黒沢尻町にまゐり、始めて洗心会にて諸氏に逢ふたのですが一見旧知のやうでうれしかった。」


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