盛岡タイムス Web News 2013年  9月  25日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉352 伊藤幸子 「水見舞に水」


 突然に烈しくなりし山の雨木々よりひびき草より響く
                          小澤光恵
                    「角川現代短歌集成」より

 このたびの台風18号による被害状況はすさまじかった。9月15日から16日は朝から日本縦断の台風情報が流され、京都の名所渡月橋の濁流に目を奪われた。勢力衰えぬまま北上を続け、16日午後3時半のニュースでは、八幡平市松尾地区で1時間に48・5_という観測史上初の記録が全国版で発表された。でも夕刻には台風は宮古沖を遠ざかると伝え、大相撲秋場所では両国の静かになった夕空が映った。

  ところが八幡平温泉郷地区では16日夜から断水だという。私はその時点でも、自分の家周辺が何でもないので、台風が去ったあとは暑いと思うぐらいで日常の暮らしに戻っていた。

  今回、温泉郷で災難に遭われた方がいらっしゃる。藤田晴子記念館の白井眞一郎館長さん。15日、台風の先頭をきって千葉県からベンツを駆って到着。豪雨で12時間余もかかったという。銘菓アンテワーズを届けてくださってそのまま記念館に向かわれた。

  それからの難儀、自宅で温泉が楽しめる別荘地帯も断水で毎日給水車に頼ることになった由。館長さんは温泉はわが西根地区に入りに来られ、日中は盛岡に出かけたりして過ごされた。

  池田弥三郎さんの「暮らしの中のことわざ」の中に「水見舞に水」という項がある。天保10年生まれの、氏の曾祖母が安政2年の江戸の大地震のとき17歳で、そのころの災害のことを語られたという。「水見舞に持って行くのは水だよ」と、池田氏の幼少期に聞かされたとのこと。本所、深川の方にある親戚ではよく水浸しになり、こんなに水だらけなのに飲み水がない。安政の大地震は真夜中だったので洗い髪で寝ていた女性が倒れた家の梁(はり)に髪をはさまれて焼け死んだともいわれる。「女は洗い髪のまま寝てはいけない」とは最低限の身だしなみとして現代でも心がけたい。

  9月21日付の盛岡タイムス紙で「温泉打撃、紅葉観光に影響」と大きく報道。初めてマスコミで温泉被害の全貌を知った。私は新聞を記念館に届け、館長さんと松川温泉を見に行った。深い谷川いっぱいに水があふれ、小屋を押し流し、巨岩や流木がもまれるさまがうかがえる。まだ足元がずぶずぶと埋もれて恐ろしい。切断された送湯管、排水溝からは白い蒸気が噴いている。まる一週間、落ち着かないまま、22日早朝、館長さんは千葉へ帰られた。未曾有の水見舞いに酔える水でもさし上げればよかったと悔いている。
  (八幡平市、歌人)


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