盛岡タイムス Web News 2013年  10月  17日 (木)

       

■  〈風の筆〉22 沢村澄子 「秋の庭園へ」


 愛宕町の盛岡市中央公民館で「庭園アートフェスタ2013」が始まった。南部のお殿様の別邸であったという歴史ある庭園に、今年も16人がさまざまなアート作品を展示している。

  1回目の開催は震災の年だったのである。その日から既に半年は過ぎていたものの、当時のわたしは、まだ何を書いていいのか分からないくらい呆然(ぼうぜん)としていた。過去には詩や俳句や散文の一部などを題材に書を書いていたが、それらの繊細な機微や叙情といったようなものはあの震災で見事に吹き飛ばされてしまい、信じていた「美」なんてものも、ただの観念であったと、すでにガランガランと崩れ落ちてしまっていた。

  つまり、何を書いていいのかが分からず、手が動かないまま会期直前になり、それが、搬入時に突然書いたのが3月11日からの新聞の見出しだったのだ。

  日に日に増える死者の数や「土葬始まる」「ママがんばりすぎないで」「放射線漏れ」「郵便配達再開」「トモダチ作戦」などなど、書をする題材としてはこれまでに経験したことのない強烈なコトバや数字を、わたしは泣き泣き書いた。泣きながら書くなんてことも、それまでにはなかった。

  幅2b弱の不織布に50b書いても3月31日分までしか書けず、それを庭のコケの上に2週間放置して、その上には少しずつ枯れ葉が落ち、片付ける日、それをぐるぐる巻きにしようとしているわたしのところへ、公民館のお掃除のおばさんが寄って来た。

  「アンタ、来年も書いとくれよ。この続き、また書いてよね」

  このアートフェスタには「現代美術と歴史の対話」という副題がついていて、その歴史というのは、お殿様の時代から、きょうこの日までのずっとのこと。そこで人間が泣いたり笑ったり奪ったり愛したりしたこと全ての記録だとわたしは思っているので、今の自分には、「震災」が起こした処々の問題に、どうしてもリアリティーが大きいのである。

  しかし、昨年はその続きを書かず、池にカラフルな風船を浮かべて、1個に1字、い、ろ、は、に…と、「いろは歌」を書いた。 

  すると、風船を準備しているところへまたあのおばさんがやって来て「アンタ、バカだねぇ。バカでなきゃこんなことやれないねぇ」と褒めてくださった。公民館のお庭係のお兄さんも、冷たい池に入って風船の設置を手伝ってくださった。

  3年目の今年、わたしは「きんのふね」を池に浮かべています。秋の深まりゆく庭園で、どうぞアートも一緒に楽しんでください。11月4日まで。開園午前7時〜午後5時。入場無料です。
     (盛岡市、書家) 


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