盛岡タイムス Web News 2013年  10月  23日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉194 三浦勲夫 祝11歳


 「ハッピー・バースデー」と言えばクラッカー、花束、ろうそく付きのバースデーケーキを思い浮かべる。祝11歳はそんなに華やかではない。今年は病気を乗り越えてたどり着く誕生日。よくがんばってきた「祝誕生日」。祝われるのは、わが家のロックである。人面魚ならぬ人面犬。狼少年ならぬ人間ドッグ。2カ月半からわれわれ家族と起居を同じ屋根の下でともにしてきた。スクスク育ったが、昨年末から内臓に病気を抱えることになり、動物病院に時々通ってきた。一日一日を積み重ねようやく10月24日の誕生日、満11歳を迎える。よく頑張ってきた。大げさに言えば万感をこめて「祝11歳」である。

  「ロック、一緒に頑張ろうな」。鼻茸の手術を宣告されて2月から仕事をしながら半年間、手術の日を待った自分。ロックの忍耐と静寂を見ながら自分も肚(はら)は座った。お前の無言の励ましがあった。また家族のいたわりがお前に注がれた。自分は手術を終え、お前は誕生日を迎える。ケーキはないけれど粛々と、祝々と祝おう。人間と暮らしてお前の顔が人間みたいな表情をたたえる。お前の気持ちが人間みたいに顔に現れる。人間のライフスタイルに順応した人間ドッグである。

  これからも一日、一月、一年と生きていこう。お前は人間ドッグになったが、なれなかった仲間もいる。野生のままに過酷な環境で生きる動物もいる。植物もある。秋は冬支度の時である。渡り鳥は渡り、サケは川を上る。木は年輪を重ねる。紅葉は燃えて散る。それぞれに与えられた命の期間を生きる。寿命は寿(ことぶき)の命とも読める。授かった命はおめでたい。それぞれの個体が与えられた生を全うする。

  秋は学園祭のシーズンでもある。小、中、高、短大、大学。大学祭の会場に高校生も来て受験の下見をする。外国からの留学生や中高年の放送大学生も軒を並べて何やらおいしいものを作って販売する。懐かしいポップスの歌声が流れてくる。放送大学の英語部が英語の歌を歌っていた。日本人の寿命は世界でも1、2番である。狭い国土、資源不足、そこに1億2000万という大きな人口。競争が激しい日本人が長生きを誇る。ということは長生きを支える社会制度、精神、文化といったものが長寿を支えているのだろう。

  人間の寿命は延びる潜在力を持ち、飼いならされた動物も寿命を延ばす。自分の周りでは90有余歳で頑張る高齢者や、100有余歳までがんばった高齢者がいる。みとりの形態はさまざまだが、元気なうちに大いに頑張り、迷惑を掛けずに逝きたい。ロックと住んで家族もいろいろ学んだ。犬は正直に喜び、正直におびえる。何が彼をおびえさせるか? 人の荒々しい言葉である。何が彼を喜ばせるか。人の優しい言葉である。喜べば尾を振り、おびえれば避難して隅に退去する。かわいいペットをおびえさせないように家族も気を配る。

  一病ロックが11歳の誕生日を迎える。人間に換算すれば60代だろうか。人間ならばまだまだ若い。若さは年齢よりも人である。心と体である。やる気、人との交わり、生きる目標、日々の節制、趣味、感謝。声を荒げず、笑顔をたたえ、気持ちを平静に。それが人生経験豊かな者の社会への最高の貢献になろうか。その逆は「一犬吠えれば万犬吠える」の混乱である。
(岩手大学名誉教授)


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