盛岡タイムス Web News 2013年  10月  29日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉186 及川彩子 秋告げる牛の下山祭


     
   
     

 ガラーンガラーンガラーン…アジアゴ高原のあちこちの牧場から、次第に街に近づいてくる心地よいカウベルの響き。

  9月終わりの週末、アルプスに秋を告げる牛の下山祭が行われました。標高2千bの牧場で夏を過ごした牛たちが、カウボーイたちに導かれ、次々に山を降りて来るのです。その数、千頭余り。

  村々を抜け、アジアゴに入ると、幹線道路は大渋滞。けれども、慣れっこの市民は「きょうは牛たちが主役」とノロノロ行列の後をついて行くしかありません。

  途中で幾度か水飲みの休憩タイム〔写真〕。ちょうどわが家の前に広がる野原にも立ち寄ったので私たちも近所の人たちと一緒に、ワインなどをカウボーイたちに振る舞いました。

  こうして活気付く牛飼いたちの掛け声の下、アジアゴの目抜き通りに到着すると、大勢の市民たちが歓声を上げて迎え出るのです。馬や羊と違い、ゆっさゆっさと揺れる大きな体の迫力ある大行進です。

  牧場経営なしでは成り立たないアジアゴの生活。名物である乳製品は言うまでもありませんが、最近は、ここの伝統的牛肉料理が世界各地でも人気とか。

  「アルプス」とは、標高の高い原っぱの意味。その牧草だけで育った牛の肉は、脂身が少なく、ビタミン豊富で、生食に適すると言われます。

  代表的な食べ方は、ベネチア生まれのバロック時代の画家カルパッチョが好んだことに由来する「牛肉のカルパッチョ」。透けるほどにスライスした生肉に、オリーブ油・レモン汁・すり下ろしチーズを振りかけて食べます。

  また「バットゥータ」と呼ばれる牛肉のタルタル風は、まるでマグロのタタキ。どれも臭みのない、アルプス牛ならではの味です。

  ギリシャ神話にも登場する牛と牛飼いは、ヨーロッパの生活、食文化の要。さながらチャグチャグ馬コのような牛の下山祭りが終わると、アジアゴ高原は本格的な冬支度です。
 


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