盛岡タイムス Web News 2013年  10月  30日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉195 三浦勲夫 生きる力


 「渡る世間に鬼はなし」。これを全面的に肯定すれば間違いとなる。「人を見たら泥棒と思え」。これを全面的に信じたらやはり間違いとなる。しかしこれらのことわざは両方とも一部の真理を持つ。二つ合わせれば人間社会の光と闇を言い当てている。個々の人間の心にも当てはまる。

  人間は個人であり、社会人でもある。個人で勝負しなければならない場面があり、また社会との依存関係で生きる場面もある。一人で解決できない場面では、社会の力を頼ることになる。ありがたい力である。そして泥棒(その他の悪人)から身を守ることができ、「渡る世間に鬼はなし」の両面を実感することになる。

  「鬼」はいっぱいいる。2月3日の節分で豆まきをして追い払っても、また翌年同じことを繰り返す。石川五右衛門は「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」と言って釜ゆでの刑にされたとか。その中で人は生きているのである。犯罪は多様化し、特にケイタイやスマホやパソコンを使った簡便なコミュニケーション手段によって人と人の結び付きが地球規模で行われる。簡単に付き合い、簡単に犯罪に引き込まれる。

  地球規模で言えば、英語その他の外国語が使えるかどうかが安全のカギとなる。日本国内で言えば、商取引などの専門知識がどれだけあるか、信頼できる相談者がいるかどうか、あるいは消費者センター、住まいる相談、警察署など公的な相談機関を利用できるかどうか。これらがトラブルを回避するカギとなりそうだ。

  自分の海外での危機回避の体験を書けば、また同じことを書くことになり気が引ける。気が引けるが、初めて読む人たちのために繰り返させていただく。42歳、厳寒のニューヨーク国際空港、バスでエア・ターミナルへ。そこから乗ったタクシー運転手はアジア移民。初めての旅行者と見て彼は「夜は一律料金です」と言い、20分ほどのホテルまで運んでくれた。降りて「90jです」と言う。(高いなあ、と思い)「ホテルまで荷物を運んでください」と自分。受付の2人は口をそろえて「大体15jが相場」と言った。これで一件落着。実はあらかじめ飛行機で隣のアメリカ人と話し「空港からバスでエア・ターミナルへ。そこからホテルまでは大体20j」ということを聞いていたのである。一人では太刀打ちできない、そのような時には他人、関係者、警察等の立ち会いや相談が必要である。

  日本語で済む国内の場合も同じである。相手が本物の資格を持つかどうか、登録証、身分証明書、見積書、領収書を確認し、信頼がおける同業者や相談所、あるいは警察に相談する。偽物(偽者)が横行する。偽の料理材料、反社会的団体への融資お断りの看板倒れ、学術論文の実験数値書き換え、偽医者、などなど。

  もっともだまされやすいのが独居老人、認知症者、学校の先生だと聞くが、子どもの無垢(むく)な心や子を思う親心、孤独な若者たちも被害を受けやすい。人間の教育には知識・知性の教育(知育)、肉体の教育(体育)、道徳心・公徳心の教育(徳育)がある。徳育は善悪を判断し人間性を高める教育である。IT技術が超速発達する現在、案外置き忘れられた部分である。精神的、現実的な生きる力もそこから生まれる。
   (岩手大学名誉教授)


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