盛岡タイムス Web News 2014年  4月   17日 (木)

       

■  34年前の興奮が今日に 秋吉敏子トリオ ジョニーズデスクCD 陸前高田公演の音源発掘


     
   自主制作した秋吉さんのアルバムCDを手にする照井顕さん  
   自主制作した秋吉さんのアルバムCDを手にする照井顕さん
 

 日本が誇る世界的ジャズピアニストの秋吉敏子さん(84)が初めて陸前高田市で演奏した1980年6月13日の音源を、デジタル・リマスタリングしたアルバムCDが16日、ジョニーズ・ディスクから発売された。秋吉さんらトリオのメンバーに極秘で録音された演奏は関係者らにダビングテープが回っただけで、世に知られていなかった。このライブを実現させた同ディスクの照井顕さん(66、カフェジャズ開運橋のジョニー店主)が昨年、久しぶりに聴き、発売にこぎ着けた。2011年の東日本大震災津波で壊滅的被害を受けた陸前高田。秋吉さんの演奏が被災地と世界を結ぶ一つになる。

  発売されたアルバムは「1980 秋吉敏子トリオ イン 陸前高田」。米国在住の秋吉さんはすでにビッグ・ネームとなり、何度も来日公演していた。しかし、ビッグ・バンドなどは地方都市での公演も難しかった。80年、秋吉さんは初めてトリオで日本ツアー。ベースがボブ・ボウマン、ドラムスがケニー・バロンというメンバーで、盛岡市と秋田市での公演も組まれていた。その情報を見た照井さんが音楽事務所に電話して直談判。両市の公演の間にあった一日のオフへ陸前高田公演を組み入れることに成功した。

  会場は陸前高田市民会館大ホール。照井さんらは貴重な演奏を録音しようと機材をセットしたが、駄目だと断られ開始前に撤去させられた。しかし、音響担当だった千葉隆弘さん(57)=住田町=が機転を利かせ、調整室に送られた音を極秘でカセットテープに録音。そのテープは約10人の関係者にダビングされ配られただけだった。

  大震災の津波では、陸前高田の元の店やレコードなどを流失。その中にはこのカセットテープも含まれていた。おととし、千葉さんが照井さんの盛岡の店に来た折、照井さんが元テープが残っていないか探してくれと頼んだところ、昨年5月、千葉さんは見つけたテープからダビングしたCDを持って店に来た。

  聴いた照井さんには「秋吉さんとの結びつき、のめり込んでいくきっかけとなった」あの日のことがよみがえった。カセットテープだったにもかかわらず、思いのほか音質も良く「ファンに聴かせるべき」と、CD制作をこのとき思い立った。

  同年10月に秋吉さんが盛岡を訪れた際にテープの存在を告白し、構想を明かした。「陸前高田のふるさと大使だった秋吉さんの世界に向けた一番の仕事ではないか」。復興途上にある被災地への後押しになると訴え、快諾を得た。私的録音による30年以上前の演奏が、演奏家本人の了解の上でアルバム発売される珍しいケースが実現した。

  収録は秋吉さんのMC入りで8曲。秋吉さん自作の名曲「ロング・イエロー・ロード」で始まり、最後は秋吉さんのキャリアで欠くことのできないジャズピアニストのバド・パウエルが作曲、名演を残している「テンパス・フュージット」。リマスタリングされた音は、当時50歳だった秋吉さんの脂がのったピアノ演奏はもちろん、小編成のせいもあって、それぞれの楽器音が粒立って生々しい音を発する。約400人の聴衆の反応も臨場感を引き立てる。

  約80分。照井さんによると、収録されなかったのが1曲あるという。今回はCDのみ1千枚の自主制作だが、アナログ・レコード2枚組の制作も思い描く。

  同会館は津波で被災。「街も消え、市民会館も消えた。会館の音として唯一残っているのが秋吉トリオのこの演奏。主催関係者の中にも津波で亡くなった人がいるし、あの日の聴衆にも、秋吉さんのファンにも犠牲者がいたはず」と照井さん。あの夜の興奮のステージが今日によみがえることで、被災地が少しでも元気になり、国内外とのつながりが新たに生まれること願う。

  アルバムはウルトラ・ヴァイヴを通じて販売。税抜き3千円。問い合わせはカフェジャズ開運橋のジョニー(電話019―651―6150)へ。


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