盛岡タイムス Web News 2015年  1月  6日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉217 及川彩子 崖の上の教会


     
   
     

 ここ数年、世界遺産の流行からか、旅の装いも様変わりを見せています。安心感ある画一化された名所巡りでは飽き足らず、異次元に迷い込んだような驚きや冒険を求め、秘境などへの旅が人気と聞きます。

  北フランスの、潮の満ち引きで道の開ける中世の修道院モン・サンミッシェルや断崖絶壁に建つ、いまだ閉ざされたギリシャの修道院メテオラなど、最近の世界遺産人気の上位は皆、秘境に息づく信仰の地です。

  先日、友人のパオロに誘われて訪れた聖ロメディオ教会も、ヨーロッパでは珍しい、北イタリア・アルプスの奥深い森の崖の上に造られた、目を見張る驚きの教会でした。

  ここアジアゴから、車で3時間余り北上、アルプス越えの高速道を離れ、山道を渓谷沿いに進むと、清流の音に生い茂る森の木々をかき分け、まるで奥入瀬にでも迷い込んだような中、車がすれ違うこともままならない細い道を奥へ…すると突然、切り立った崖に、石造りの白い教会が現れたのです〔写真〕。

  崖の高さ100b余り。教会へと向かう階段は150段。息を切らし、時折見上げると、幾つもの礼拝堂が、らせんに重なり合う構造で、より一層奇怪に見えます。

  一歩一歩の道すがら、パオロが話してくれたのは、16世紀、この奥地にやって来た修道僧の話。清貧で洞窟暮らしの僧ロメディオの足代わりである馬を襲ったクマが、後に改心しロメディオを背に乗せ、共に説法して回ったという伝説でした。後に、聖ロメディオとクマをたたえて建てられた教会の神秘が言い継がれ、何世紀と訪れる人が絶えないのです。

  たどり着いた門をくぐり、さらに急な階段を天なる聖堂へ。振り返ると足がすくみます。それでも堂内は、貴重なミサに集う人でぎっしり。

  人はなぜ秘境に引かれるのか…初めてその地にやってきた昔人の力を借り、何かを解放したくなるのか、立ち向かいたくなるのか―そこに理由は要らないかもしれません。


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