盛岡タイムス Web News 2015年  1月  8日 (木)

       

■  旧満州と岩手山麓 開拓者の生の声を記録 元岩手医大教授黒澤勉さん出版 「オーラルヒストリー拓魂」


     
   「オーラルヒストリー『拓魂』」を出版した黒澤勉さん(左から3人目)と山上忠治さん(同4人目)。左から、ちづるさん、久子さん  
   「オーラルヒストリー『拓魂』」を出版した黒澤勉さん(左から3人目)と山上忠治さん(同4人目)。左から、ちづるさん、久子さん
 

 元岩手医科大学共通教育センター文学科教授の黒澤勉さん(69)が、旧満州、岩手山麓開拓の入植者らの戦中戦後の体験を6年にわたって記録し、このほど「オーラルヒストリー『拓魂』―満州・シベリア・岩手―」(風詠社刊)として出版した。旧満州、シベリア、戦後の岩手で生きてきた人たちの生の声を聞き取った労作。南部駒蔵のペンネームで盛岡タイムスの同名の連載(2013年11月│14年11月、100回)を一冊にまとめた。本書でシベリア抑留の過酷な体験や滝沢村(当時)入植時の思いを語った山上忠治さん(97)=滝沢市大石渡=は「ここに来たときは『やらにゃならん』という気持ちだけだった。シベリア抑留の、あの苦労を思えば、どんな仕事でも楽しかった」と振り返り、ともに入植した家族と出版を喜ぶ。黒澤さんは「(山上さんらは)戦争を直接体験した世代。この方たちの経験や苦労があり、今の岩手があるということを多くの方に知ってもらいたい」と話している。

  本書は、黒澤さんが08年3月に発足した「21世紀 日中東北の会」主催の50回余りの講演記録が基になっている。90代、80代の人たちの満州体験、引き揚げ後の開拓の苦労に心を打たれた黒澤さんは、日本の歴史、開拓史の資料を新たに調べて加筆し、1年にわたって本紙に連載した。

  山上さんの体験は、本書の第1章「山上忠治の満州・シベリア」、第5章「山上忠治の戦後―岩手山麓開拓物語」で克明に記されている。

  山上さんは長野県下伊那郡上郷村の農家の出身。1940年、「拓け満蒙」などの呼び掛けに憧れを抱き、23歳で満州へ。日本では考えられない広大な土地の地主となったが、45年5月の召集令状で一転。2カ月の訓練を経て軍隊に入り、「生きるも死ぬも紙一重」という経験をした。敗戦後、「上郷村なら明治節≠ナ大運動会が開かれる」11月3日にシベリアに抑留され、氷点下50度の中で木材を運ぶ仕事もした。

  音信不通だった妻のちづるさん(92)と長女の久子さん(70)が「生きて日本に帰っている」と分かったのは、48年8月、引き揚げ船で京都府舞鶴に上陸してからだった。

  49年3月には、妻子と故郷の上郷村の仲間を伴って滝沢村柳沢の開拓地へ。当時は山から木を出すためのそり道が谷間に一本あるだけ。木とクマザサを切って焼却する作業を日々続けた。焼却作業の届けを出していなかった盛岡の消防署から消防車が来ることもあったという。

  5歳で滝沢村に来た久子さんは「この辺りの山は中村森≠ニいわれ、(高い建物がなかった)盛岡の開運橋からも見えた。遠くからでも『あの山の下に家があるな』と思った。小学校の同級生も少しずつ増えて楽しかった」と懐かしむ。

  「木一本切っても自分のためになるから、苦労が苦労じゃない。シベリアでいくら働いても苦しいだけ。命を守ることだけで精いっぱいだった。戦争は本当に大変。やっては駄目です」と声を強める。

  山上さんに続き、古里の上郷村から若い入植者も来るようになり、入植から3年は共同生活。炊事場で食事を作るのはちづるさんの役目だった。働き詰めで、次女を出産後に体調を崩したこともあり、山下さんは「本当に苦労をかけた」とねぎらう。久子さんは「小さいときから手伝うことが当たり前だった」と話し、家業の酪農が息子の仁志さん(46)の代になった今も40頭の乳牛の世話をしている。

  山上さんは、畜産の共同経営から個人経営への転換に尽力したほか、農業委員、結婚相談員も務め、2002年に滝沢村の村勢振興功労者表彰も受けている。

  本書は6章構成。旧満州から引き揚げ後、本県で開拓農民として生きてきた田代寛さん(宮古市出身)、モンゴルに抑留され極寒の中を生き抜いた田村博さん(八幡平市出身)、「満蒙開拓青年義勇軍」として満州に渡った高橋直治さん(同)らの体験も記している。

  黒澤さんは、岩手医科大を定年退職後、盛岡タイムスに「大連通信」などを連載。14年に「正岡子規と日清戦争」について研究発表した。

  「オーラルヒストリー『拓魂』」は、四六判、288n、1667円(プラス税)。盛岡市内のジュンク堂、エムズ書店で扱っているほか、各書店を通して風詠社(電話06―6136―8657)から取り寄せられる。


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします