盛岡タイムス Web News 2015年  1月 13日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 「空気」渡邊眞吾



丹沢へ登ったことがある
若かった 駆けるようにして登った
頂上を前にして 山巓(さんてん)が霞み
目のあたりを空華(くうげ)が舞った
薄い 空気のなかで
空気の存在に初めて気付いたのだった
あれから
枯れている樹々が
気になることはあったが
空気の有無を忘れて 過ぎた
 
冬の 低い日差しが射しこむ仏間
仏壇に供えた
若松の緑が金色に耀(かがや)き
蜜柑は琥珀色に光っている
白い息で線香が揺れる
父も 母も 生きていたのだ
この空気を吸って
確かめるように
誰も居ない 部屋を見廻す
障子の桟に空気が積もっている

ガラス戸越しの雪の上にも
青い空気が燃えている
邂(あ)って 訣(わか)れた人々
まだ 逢ったことがない人々
地球のどこかで
空気を吸って生き
空気を吐いて死んでいく
両掌に盛ると 空気は
形あるもののように
重く 神神しい

みんな この空気を吸って
生きて いる



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