盛岡タイムス Web News 2015年  9月 15日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉235 及川彩子 ジュスティ庭園の怪人

 

     
   
     

 ここ北イタリア・アルプス高原の街アジアゴから西へ車で1時間半程行くと、シェークスピアの名作「ロミオとジュリエット」の舞台となった古都ベローナの街。

  巨大なローマ遺跡アレーナ(野外劇場)でも知られる文化都市ベローナは、ベネチアとミラノの中間点。オーストリアへ抜ける峠の入り口でもあり、季節を問わず観光客でにぎわっています。所用で足を運ぶ機会が多い昨今、イタリア第二の棲家に感じられ、毎回、小さな街発見が楽しみになりました。

  先日は、街中にありながら、通りからは伺い知ることのできない、隠れ家のようなジュスティ庭園を訪ねました。16世紀のバロック様式の極みと言われるその庭は、糸杉の並木、美しく刈り込んだ生垣のラビリント(迷路)、噴水を囲む彫像、高台からはグロテスクな怪人が見下ろします[写真]。当時は、そのアングリと開いた口から炎を噴き出す演出もなされ、遊戯文化もしのばれます。

  かつては、ゲーテ、モーツァルトや、近代フランス音楽を代表する作曲家フォーレも立ち寄り賞賛した楽園で、いまだ牙をむく怪人…でも、遊び心いっぱいで、光と影に見え隠れする彫像も皆、役者の表情に見えてくるのでした。

  この6月に訪れたモロッコの街でも、土壁の殺風景な通り沿いからは想像も付かないような庭の風景に出会いました。民家の重い鉄の扉を開けた途端、まぶしい陽と緑にあふれた、吹き抜けの中庭が目に飛び込んできたのです。

  噴水の傍らに鳴くオウム、横たわる亀、床は、鮮やかなモザイク。その庭を囲むように居間や台所が配置されているのです。

  聞くと「イスラムの家は中庭が中心。その豊かさは、決して外に見せてはなりません。女性が髪を覆うのと同じ、家族と神にのみ向けられたイスラムの心です」とのこと。

  その精神とは対照的なベローナのジュスティ庭園。信仰や様式から生まれたさまざまな空間に、奥深い世界が宿っているのでした。


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