盛岡タイムス Web News 2015年  9月 16日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉453 伊藤幸子 「鬼怒川洪水」

 

  幼きに見たり予科練の練習機「赤とんぼ」飛びゐき筑波の空を
                                            斎藤 絢子

 9月10日、11日の鬼怒川洪水の報道に胸が苦しくなった。テレビではしきりに「筑西市(ちくせいし)」という声もする。まるで海のような堤防決壊のすさまじさ、これほどの水がどこから押し寄せてくるのかと恐怖にかられる。

  筑西市には50年来の友人がいる。歌人の斎藤絢子さん。11日の夜、電話をかけてみた。「あれ、まあ、岩手は雨降ってる?」と元気なお声。「あや子さんのとこ、川は近くないの、大丈夫?」と矢継ぎ早の質問を浴びせ、「小貝川は無事」と分かり安堵(あんど)した。

  彼女には拙書を送った後、手紙や所属の「関城(せきじょう)文芸」や写真などを頂き、今夜はお礼と水見舞いが一緒の長電話になった。「それにしても、関東は平野だねえ。これじゃあ堤防決壊したら海みたいになるわけだよね」と、私は友人無事の安心感から饒舌になった。

  かつて頂く文物の彼女の住所は「茨城県真壁郡関城町」だった。それが平成の大合併で下館市、関城町、明野町、協和町が一つになり「筑西市」になったとのこと。

  「待って、あや子さん。早い、もっとゆっくり話して」と言いながら、私は久々に他県の方の話を聞き取れない焦りを感じていた。

  「私も七十すぎたから、声、聞き取りにくいでしょう」と笑われるが、ウサギを抱いた写真に「ミニウサギ」と言っているのに私が、「耳ウサギ?」と聞き返して大笑い。その写真の裏に「わが家より東一キロ先が小貝川。その土手の空地より筑波山がそびえている」と説明書き。どこまでもつづく葦群(あしむら)のみどり。

  日蓮宗の古刹を守る彼女の環境の東方向に筑波山、西の端には鬼怒川が流れていると聞かされて地図にて確認。小貝川も今まで何度も氾濫しているという。

  昭和14年、うさぎ年生まれの絢子さん。幼少期から脚を病まれ、今も杖(つえ)を頼りに暮らされる。「関城文芸」の講師をされ、地域の指導者として活躍。「としをとるのを忘れた人」と愛され信頼されているようだ。

  朝日歌壇の常連さんで、宮柊二、近藤芳美選に輝き、入選歌集を出版もされた。秋はどこの地でも芸術祭たけなわ。「私の俳句、笑わないでね」とご披露されたのは「杖持たぬ片手に包むほたるかな」「猫の鳴くやうに玻璃戸(はりど)の開く寒さ」との名句。思わず色紙をねだったことだった。「アレ、ミーコ(ウサギ)が鳴いている」と、長電話をひとまず終わりにした。
(八幡平市、歌人)



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